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ショコラーデと紅茶。

148話

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 表現に困る味。マクシミリアンの表情も左右非対称になる。

「食べたことあるっちゃあるけど……でも単品で食べるものではあっても、クッキーには——」

 と言いつつ、もう一枚。美味しいのか、不味いのか。わからないので食べてみる。一瞬、手が止まったり、首を左右に揺らして、全身で味わってみたりもするが、やはり答えが出ない。

 ほぼ同じような感想をクルトも抱いた。だが、少しずつ変化が生じる。

「……噛んでいると、クセになるというか、美味しいというよりも、いい塩辛さというか」

 遺伝子に刻まれている、ラクリスの味。なぜか手が止まらない。味を追求してきた自分とは、真逆にある。会話も弾む。

 ほのかな甘さと、ハーブの香り。そちらを楽しんでいたマクシミリアンであるが、塩味も気になってくる。

「表現が難しいね。そっちもひとつ」

 と、勝手にクルトのクッキーに手を伸ばした。許可が出る前に食べてしまう。うん、より強烈な味。だが、これはこれであり。思いっきりハマる味でもないのだが、あったら食べてしまう。

 自分のクッキーが一枚減ったことを確認したクルト。実は甘いほうも気になっていた。タイミングよく持っていかれたため、自然にマクシミリアンのほうを一枚つまむ。

「はい、では私もそちらを」

 頬張るとたしかに違う。甘さはもちろんだが、厚みが若干、塩味よりも薄い。より甘さが引き立つ。濃すぎる塩味は、ある程度中和するために厚く。噛んでみて初めてわかるが、焼いた人物はそこまで計算したのだろう。

 勢いよく食べられている割には、気になることがウルスラにはある。
 
「……ねぇ、美味しいって言われてないけど……」

 言われることは「不思議」「難しい」「クセになる」。いいのか悪いのか。無言よりは助かるが、喜びづらい。

 しかしそれもアニーには想定内。ムフフ、と口角を上げる。

「いいんスよ。これはそういうものなんです。そしてそのなんとも表現できない味を、紅茶で流し込む」

 その言葉を聞いた途端、思い出したように紅茶を飲む二人。両者ともに二杯目。塩辛さや甘さには、すっきりとした清涼感が合う。さらにライムで味を変える。変わる。何度も。

 静かに手を止め、その指を口元に当てるクルト。本人は気づいていないが、考える時のクセになっているようだ。

「……やはりわかりませんね。なんだかんだで気になって、研究者の目線になってしまう。ラクリスのショコラーデは見たことがありますが、クリームにして挟むとなんというかこう……」

 まだ、答えを出せないでいる。しっかりと言葉にできないと、なんだかむず痒い。しかし、それもまた面白い。久しぶりの感覚だ。
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