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ショコラーデと紅茶。

137話

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 クルト・シェーネマン。その名前にダーシャも聞き覚えがある。
 
「……え? あの、ショコラティエで有名な? あの?」

 同じ区でもないが、三〇歳という若さで自身の店を持ち、フランスにおいてM.O.Fを獲得した、ショコラーデ界で今、最も勢いがあると言ってもいい人物だ。その人物が今いる? 顔はよく知らなかったので気づかなかったし、見えなかった。

 チラチラとその壁際の席を確認しながら、ユリアーネは意味もなく声をひそめる。

「間違いありません。一度、お店のほうに伺ったことがあります。なぜここに……?」

 ただの休憩、と受け取っていいのだろうか。カフェとショコラトリー。客層が被らないこともないだろうが、まさか偵察ということもないだろう。気にしすぎか、と非常に息遣いが荒くなる。なにせ彼女はクルトのショコラーデの大ファンだ。新作の紅茶のショコラーデももちろん堪能した。

「……てことは、おそらくアニーちゃんを呼んだのはマクシミリアンさんだとして、それと一緒ってことは……」

 点と点が繋がる……ような気はしないのだが、ダーシャはそこにアニーが関わってくるとなると、ややこしいことになるのでは、と心臓がキュッとなる。胃薬を常備はしているが、果たして出番がないように済むだろうか。

 興奮と、不安と。複雑な心境でユリアーネは見守るしかない。

「……たまたま、かもしれませんが、アニーさんに用があるということ、でしょうか」

 なぜ? 引き抜き……はないだろう。製菓学校を出ているわけでもない。売り場での接客のためにわざわざ、ということは考えにくいから。とすると、まさかウチの店とコラボ……なんてことになったら……!

 どちらかというと良い方向に物事を考えるユリアーネに対して、ダーシャは慎重だ。悪いふうに考えておいて、ダメージを軽減する性格。

「なにか試されている、のかな……? いや、本当にただカフェに来ただけかもしれないし——」

「なーに悪いことを企んでるんスか。働きましょう」

 紅茶を淹れている最中のアニーが、ユリアーネに背後から抱きつきつつ、話に割り込む。ベースはシンプルなストレート。待ってる間は暇。そうなると彼女の元に行くのは必然。

 驚きつつも、いつも通りのアニーがダーシャは気になる。

「いつの間に。てかアニーちゃん、あの人が誰か知ってるの?」

 メディアなどでも取り上げられることもある人物。紅茶のショコラを生み出し、それも評判の高いショコラティエ。紅茶だし、もしかして?

 若干テンションの上がったダーシャに、アニーは疑念を抱く。

「? なに言ってるんスか? マクシミリアンさんじゃないですか。ヒゲに全部ブドウ糖持ってかれたんスか?」

 やっぱりあっちが本体だったんスか……と、残念がる。まさか常連さんさえも忘れてしまうなんて。
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