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花と衣装。

119話

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 悪い話ではない。交換留学ができるのはほんの一部の生徒のみ。それに選ばれた。本来なら行く行かないは別にして、喜んでいいことだ。しかし、ユリアーネは店のこともあり、いきなり言われても当然即答はできない。

「……いえ、私は——」

「いつからですか? 結構毎年バラつきがありますよね?」

 気になる部分を、シシーが先に問いかける。なにか予定でもあるかのように。

「半年後。そして留学期間は半年。今回呼んだのは、それをどうするか決めるためのプレ留学ってところ。それで、本格的な留学に行くか行かないか、決めてもらおうかと。今年からの試みね」

 淡々と内容をエルガは伝える。様々な情報に詳しいと噂のシシーも知らないこと。
 
「なるほどね。いつからで、その期間はどのくらいですか?」

 聞きたいことを率先してシシーが聞いてくれるので、ユリアーネは終始無言で立ちつくすのみ。そもそも、今は留学などは視野に入っていないため、どうでもいい、というほうが正しいか。

「向こうの都合で今月半ばから。期間は一週間。急だから、予定があればそちらを優先してもらって構わないわ」

 一気に喋ったからか、再度口にコーヒーを含んだエルガは、「ふぅ」と息を吐いてイスにもたれかかる。実験的な要素もあるため、彼女にもどれだけの効果があるかはわからない。不安もある。

 少し悩む仕草を入れたシシーは、緊張の面持ちを見せるユリアーネの肩をポンッ、と叩いた。
 
「面白そうですね。予定がないこともないですが、自分は大丈夫です。ユリアーネさんはどうする?」

 唐突に話を振られ、軽くパニックになるユリアーネだが、それでも腹は決まっている。無理だ。色々と。

「……いえ、私は——」

 お店が。自身がオーナーを務めるカフェがある。そちらも手が回っていないのに、店を離れるわけには。

 言葉を選んで言えずにいるユリアーネに、シシーはフォローを入れた。

「無理にじゃないけどね。俺は面白そうだから行くよ」

 真っ直ぐ憧れのシシーに見つめられ、ドギマギしたユリアーネは、つい、

「……行きます……」

 と、意志に反したことを口にしてしまう。内心「あ——」と背筋が冷たくなったが、一度言ってしまった以上、否定できずにいる。
 
「いいね。そういうことで先生、二名ともお願いいたします」

 笑顔を見せるシシーに、ユリアーネも苦笑いで応えるのみ。今ならまだ間に合う。

 上級生に流されている雰囲気を感じ取ったエルガは、再度ユリアーネに確認を取る。

「仕切ってくれて助かるわ。ユリアーネさんも、無理にじゃないからね、本当に」

 最後の手を差し伸べてくれている。一週間だけ。されど一週間も。お店の改善を。色々と試したいこと。作りたいメニューがある。それなのに。ユリアーネは。

「……行きます」

 なぜ、その手を離したのか。きっと、シシー・リーフェンシュタールという人物との縁を、切りたくないからだと自分に言い聞かせた。
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