119 / 220
花と衣装。
119話
しおりを挟む
悪い話ではない。交換留学ができるのはほんの一部の生徒のみ。それに選ばれた。本来なら行く行かないは別にして、喜んでいいことだ。しかし、ユリアーネは店のこともあり、いきなり言われても当然即答はできない。
「……いえ、私は——」
「いつからですか? 結構毎年バラつきがありますよね?」
気になる部分を、シシーが先に問いかける。なにか予定でもあるかのように。
「半年後。そして留学期間は半年。今回呼んだのは、それをどうするか決めるためのプレ留学ってところ。それで、本格的な留学に行くか行かないか、決めてもらおうかと。今年からの試みね」
淡々と内容をエルガは伝える。様々な情報に詳しいと噂のシシーも知らないこと。
「なるほどね。いつからで、その期間はどのくらいですか?」
聞きたいことを率先してシシーが聞いてくれるので、ユリアーネは終始無言で立ちつくすのみ。そもそも、今は留学などは視野に入っていないため、どうでもいい、というほうが正しいか。
「向こうの都合で今月半ばから。期間は一週間。急だから、予定があればそちらを優先してもらって構わないわ」
一気に喋ったからか、再度口にコーヒーを含んだエルガは、「ふぅ」と息を吐いてイスにもたれかかる。実験的な要素もあるため、彼女にもどれだけの効果があるかはわからない。不安もある。
少し悩む仕草を入れたシシーは、緊張の面持ちを見せるユリアーネの肩をポンッ、と叩いた。
「面白そうですね。予定がないこともないですが、自分は大丈夫です。ユリアーネさんはどうする?」
唐突に話を振られ、軽くパニックになるユリアーネだが、それでも腹は決まっている。無理だ。色々と。
「……いえ、私は——」
お店が。自身がオーナーを務めるカフェがある。そちらも手が回っていないのに、店を離れるわけには。
言葉を選んで言えずにいるユリアーネに、シシーはフォローを入れた。
「無理にじゃないけどね。俺は面白そうだから行くよ」
真っ直ぐ憧れのシシーに見つめられ、ドギマギしたユリアーネは、つい、
「……行きます……」
と、意志に反したことを口にしてしまう。内心「あ——」と背筋が冷たくなったが、一度言ってしまった以上、否定できずにいる。
「いいね。そういうことで先生、二名ともお願いいたします」
笑顔を見せるシシーに、ユリアーネも苦笑いで応えるのみ。今ならまだ間に合う。
上級生に流されている雰囲気を感じ取ったエルガは、再度ユリアーネに確認を取る。
「仕切ってくれて助かるわ。ユリアーネさんも、無理にじゃないからね、本当に」
最後の手を差し伸べてくれている。一週間だけ。されど一週間も。お店の改善を。色々と試したいこと。作りたいメニューがある。それなのに。ユリアーネは。
「……行きます」
なぜ、その手を離したのか。きっと、シシー・リーフェンシュタールという人物との縁を、切りたくないからだと自分に言い聞かせた。
「……いえ、私は——」
「いつからですか? 結構毎年バラつきがありますよね?」
気になる部分を、シシーが先に問いかける。なにか予定でもあるかのように。
「半年後。そして留学期間は半年。今回呼んだのは、それをどうするか決めるためのプレ留学ってところ。それで、本格的な留学に行くか行かないか、決めてもらおうかと。今年からの試みね」
淡々と内容をエルガは伝える。様々な情報に詳しいと噂のシシーも知らないこと。
「なるほどね。いつからで、その期間はどのくらいですか?」
聞きたいことを率先してシシーが聞いてくれるので、ユリアーネは終始無言で立ちつくすのみ。そもそも、今は留学などは視野に入っていないため、どうでもいい、というほうが正しいか。
「向こうの都合で今月半ばから。期間は一週間。急だから、予定があればそちらを優先してもらって構わないわ」
一気に喋ったからか、再度口にコーヒーを含んだエルガは、「ふぅ」と息を吐いてイスにもたれかかる。実験的な要素もあるため、彼女にもどれだけの効果があるかはわからない。不安もある。
少し悩む仕草を入れたシシーは、緊張の面持ちを見せるユリアーネの肩をポンッ、と叩いた。
「面白そうですね。予定がないこともないですが、自分は大丈夫です。ユリアーネさんはどうする?」
唐突に話を振られ、軽くパニックになるユリアーネだが、それでも腹は決まっている。無理だ。色々と。
「……いえ、私は——」
お店が。自身がオーナーを務めるカフェがある。そちらも手が回っていないのに、店を離れるわけには。
言葉を選んで言えずにいるユリアーネに、シシーはフォローを入れた。
「無理にじゃないけどね。俺は面白そうだから行くよ」
真っ直ぐ憧れのシシーに見つめられ、ドギマギしたユリアーネは、つい、
「……行きます……」
と、意志に反したことを口にしてしまう。内心「あ——」と背筋が冷たくなったが、一度言ってしまった以上、否定できずにいる。
「いいね。そういうことで先生、二名ともお願いいたします」
笑顔を見せるシシーに、ユリアーネも苦笑いで応えるのみ。今ならまだ間に合う。
上級生に流されている雰囲気を感じ取ったエルガは、再度ユリアーネに確認を取る。
「仕切ってくれて助かるわ。ユリアーネさんも、無理にじゃないからね、本当に」
最後の手を差し伸べてくれている。一週間だけ。されど一週間も。お店の改善を。色々と試したいこと。作りたいメニューがある。それなのに。ユリアーネは。
「……行きます」
なぜ、その手を離したのか。きっと、シシー・リーフェンシュタールという人物との縁を、切りたくないからだと自分に言い聞かせた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる