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花と衣装。

94話

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 本と木の圧力に押されながらも、アニーはパリの漫画カフェに食いつく。そういうカフェがあると聞いたことはあるが、行ったことはない。いつか行ってみたい。

「あれはたしか時間制で料金を払うんスよね。ここもですか?」

 一時間三ユーロくらいで、ドリンクバーや電子レンジも使い放題、漫画も読み放題。なにもかもが未体験で真逆。それでもカフェであることは間違いない。

 本を扱う、と言う意味では一緒だが、テオは違いを明確にする。

「いや、ここはコーヒー一杯だろうと、とりあえず支払えばいつまでいてもいい。中には寝てる人もいるね」

 勉強しようと仕事をしようと読書をしようと食事をしようと。時には保育所のようになることもあるが、それがこの店の『らしさ』。

「……もはや回転率とかないですね」

 呆れるべきことなのかもしれないが、アニーは羨ましくもある。地域に支えられた店。地元のフリースラントは、どちらかと言えばそういうところだった。懐かしくもある。そして、ヴァルトにはあまりない部分だ。もちろん、いつも来てくれる常連さんはたくさんいるが。

 テオはテーブルのひとつに手を置き、しみじみと解説する。

「まあねぇ。だいたいのお客さんはいつもの顔馴染みだし、料理だって勝手にその人に合うように味付け変えたりね。胃を悪くしてるのに脂っこいものとか出せないから。たぶん、街中のカフェなんかではできないね。地域密着ならでは」
 
「……勉強させてもらいマス」

 なにかしらヒントがあるはず、とアニーは集中してまわりを一瞥した。木が多い、という点ではヴァルトと同じ。だが、違いもある。読書をメインとしているため、読みやすいダウンライト。店内は明るい。
 
「しかし、どうしてオーナーはこの場所に店舗を作ったんスかねぇ。売上でいうと、街中とかのほうがいいのに」

 いやらしい話ではあるが、売上というものは大事な要因のひとつだ。しっかりと経営するためには、避けては通れない道。もっと人通りの多い駅前などのほうが、好都合のはず。

 戸惑うアニーに対して、テオは理由を説明する。

「あれ? 聞いてない? オーナーはここ出身だからね。会ったことある?」

 生まれた場所だから、というもの。売上よりも郷土愛をとった形だ。

 ほえー、と新たな真実を知り、今日ここに来るまでの道のりをアニーは回想する。のどかな動物。風景。

「そうだったんスか……笑い方に特徴のある変なおじいさん、くらいにしか思ってなかったです……」

 ほっほ、と笑うのは、この土地でのんびり育ったからなのだろうかと、適当に推測した。たしかにのんびりした人だった。
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