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必要と不要。

83話

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「は?」

 なんとなく上から言われているような気もするが、まぁ実際、立場的には上司なので、そこについてカッチャは不問とした。それよりも。

「そんなわけないじゃん。今日は代打で請け負っただけ。メニューもテーブルウェアも知らないっつの」

 答えながら余ったミルクを、アニーが置いたグラスに注ぎ、カッチャはそのまま飲む。飲まないとやってられない。

 きょとん、とアニーは目を丸くした。

「え、じゃあ誰が?」

「ひとりしかいないっしょ」

 残りのミルクを飲み干し、カッチャはアニーが答えに到達できるよう、導く。

「まさか……ビロルさんが……たしかに、あの人なら色々やりかねない……!

 絶対そうっス……! と、どこからか出てきた、全くお呼びでない男の名前をアニーは挙げた。

 導きに失敗したカッチャは、すぐに修正作業に入る。

「いや、なんでよ。ユリアーネよ、ユリアーネ。あの子が忙しい中、時間を作ってずっと紅茶とテーブルウェアやら勉強してんの。気づいてないのはあんただけ」

 全く、油断も隙もない、とアニーへの警戒レベルを一段階引き上げる。こいつに会話の主導権を握らせたら、どこにいくかわからない。

 唐突に出てきたユリアーネの名前を聞き、呆然としたアニーは、わなわなと震える。

「……いや、だって、そんなことは……」

「このアイスジャスミンラテも、あの子が豆からミルクからテーブルウェアから、なにからなにまであの子が作ったやつ。ほら、レシピ」

 と、アニーの眼前に一枚の紙をカッチャは突きつけた。そこには、紛れもなくユリアーネの字で、事細かに指示が書いてある。タイカや魔法のことなど、提供するときの話題なども調べ上げていた。
 
「他にもルイボスゼリーとか、アールグレイのルーネ……ベリタルト、とか。よくわかんないけど」

 さらに他のものも読み上げるが、ともかくユリアーネはコーヒー以外にも目を配り、店全体を見ているということ。テーブルウェアのことはオリバーに聞いているし、料理のことはビロルと相談して作り上げている。コーヒーのことはダーシャと。紅茶はアニーと。

 不安にかられ、アニーはまた肩を落とす。そしてカッチャの発言に口を挟んだ。

「……ルイボスは、正確には紅茶ではないっス……ルーネベリタルトは、一月から並ぶフィンランドのお菓子っス……」

 そこは訂正しておきたかった。

 減らず口を……と、カッチャは顔が引き攣るが、とりあえずこのしょうもない話をまとめにかかる。

「いや、あたしじゃないから。あんたが思っている以上に、あの子はあんたのことと、あんたの理想とするお店を考えてるってこと」
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