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必要と不要。

68話

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「……疲れました……」

 久々に自宅に帰り、そのままユリアーネはソファーに倒れ込む。二一時。フリードリヒスハイン=クロイツベルク区にあるアルトバウ。ドイツでは第二次世界大戦以前の建物を『アルトバウ』、以降のものを『ノイバウ』と分けることができ、リノベーションされているところがほとんどだ。

「着替え、なきゃ」

 ここ最近はアニーの家に泊まることも多かったため、少し散らかっている。体を起こして部屋全体を見回す。フローリングの床、白い壁紙、レンガ調の窓合壁。どれも前に住んでいた人物がリフォームしたものらしい。ドイツでは賃貸も無許可でリフォームする。

「ん?」

 ふと、ポケットの携帯に着信。メッセージが送られてきている。アニーからだ。

 <もう家に着きました? 無事ですか?>

 数十分前に店で別れたばかりだが、今日は向こうの家に行っていないこともあり、心配してくれているのだろうか。

「大丈夫です、着きましたよ」

 送る内容を口に出しながら、ユリアーネはアニーの家のことを思い出す。気づけば、大体のことはアニーさんがやっていましたね、と。洗濯や軽食なども。彼女の家なのだから、当然といえば当然なのだが。再度、着信。

 <よかったっス。ユリアーネさん、案外抜けているところがあるから心配で>

 痛いところを突いてくるが、たしかに、と思い当たる節がある。今も、学校の制服のまま眠りそうだ。返信をしようとしていると、さらに着信。

 <帰り道、黒猫が横切っていきました! 明日なにかあるかもしれないです>

 迷信なのに、と薄目で微睡みながら画面を眺めていると、またさらに着信。

 <ハイツングを点けても寒いです>

「……ん?」

 さらに。

 <明日はミルクティーの気分です>

 さらに続く。

 <玄関ホールのタイルが剥がれてました!>

 <お腹空いてないですか?>

 <ユリアーネさん>

 <推してるサッカークラブはどこですか?>

 <ユリアーネさん、まつ毛長いっスよねぇ>

 <ユリアーネさん!>

「……」

 何事だろう、そう最後に考えたことまでは覚えているが、脳が思考を拒否したため、返信せずにそのままソファーに放置。

「明日……返します……」

 ドイツでは、夜間から早朝はシャワーや洗濯など、騒音を禁止している。そのため、隣人や上下の階の住人から苦情がくることもある。とはいえ、明日も朝早いため、今のうちにシャワーを浴びなければ、と奮い立たせてとりあえず浴びる。そしてすぐに就寝。

 その翌朝。
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