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ユリアーネ・クロイツァーと珈琲。
36話
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スウェーデンの首都、ストックホルムから二〇キロほど離れた場所にある、港町グスタフスベリ。人口も一万から二万の間ほどしかいないこの小さな町は、スウェーデン人で知らぬ者はいないほどに有名な町なのである。
世界でも有数の陶磁器の町として知られ、著名な陶芸家の工房が多数あり、スティグ・リンドベリやリサ・ラーソンなどのデザイナー達によって、個性的なテーブルウェアを世に送り出し、ほぼ手作業で作り続けるのは、町の名前と同じブランド名を持つグスタフスベリだ。
「ふふっ、今日もセクシーだね」
ドイツはベルリン、テンペルホーフ=シェーネベルク区にある『カフェ ヴァルト』。そこには、海外、特に北欧の陶磁器がテーブルウェアとして、多く使われている。北欧のコーヒーの消費量は群を抜いており、特にフィンランドはひとり当たりの年間の豆の消費量がなんと一二キロを超える。これは国民ひとり当たり、一日に四杯ほど飲んでいる計算になる。
「あぁ、ごめんね。ヒューゴとフレイヤは一緒だよね」
そんな『森』を意味するヴァルトの店内。ドイツには閉店法という法律があり、地域によって違いはあるが、お店を閉めなければならない。ベルリンは二四時間営業を認められてはいるが、やっている店はほぼない。日曜日は完全に休みとなるが、年に六回だけは開けていいという、とてもややこしい法律だ。ヴァルトは夜の二〇時には閉店となる。
閉店作業を進めるオリバー・シュバイクホファーは、ヴァルトの中でも比較的最近入った大学生だ。勤務態度は至って真面目、接客は丁寧、人見知りせず従業員とのコミュニケーションもバッチリ。しかしひとつだけ、特殊な性癖がある。それは『テーブルウェアを愛しすぎる』という部分だ。
「妬いちゃダメだよ、ルーカス。キミはフラれたんだから」
カップのひとつひとつに、ソーサーのひとつひとつに、その他陶磁器のテーブルウェアひとつひとつに名前をつけて愛でている。彼にしかわからない違いがそれぞれにあるらしい。ただ、たしかに北欧のテーブルウェアは、手作りであることが多い。職人が手間暇をかけて、少数だけ製造する。
その魂のこもった芸術品を、彼は愛している。もちろん、手作りではないテーブルウェアも愛すが、陶磁器は特別だ。ちなみにルーカスは、モンセスデザインというスウェーデンの食器ブランドのカップ。彼の中で恋愛沙汰に巻き込まれているらしい。丁寧に水垢など残らないよう、磨き上げている。
「ふふっ」
この至福の時間は誰にも邪魔させない。最近、なにやら新しいオーナーに変わったとのことだが、オリバーは陶磁器と触れ合えるならなんでもいい。自分の経済力では、お店のような在庫ほど、収集することはできない。それに、テーブルウェアは使われてこそ輝く、と考えている彼にとっては、この店のこだわりは自分とマッチしている。特に北欧のテーブルウェアは、世界的に見ても好きなブランドが多い。
「ふふふふ」
「怖いですって。なんとかなりません?」
遠くから、同じアルバイトのビロルが、店長代理のダーシャに助けを求める。基本的にいいヤツだ、しかし、この時間の彼は、店長で問題児の高気圧ガール、アニエルカ・スピラよりもある意味で手に負えない。簡単に言えば、さっきのとおり『怖い』。
「まぁ……仕事は一生懸命だし、お店を愛してくれている証拠だから……」
それでもダーシャは考えてしまう。なぜ、ウチには普通の子が来ない?
世界でも有数の陶磁器の町として知られ、著名な陶芸家の工房が多数あり、スティグ・リンドベリやリサ・ラーソンなどのデザイナー達によって、個性的なテーブルウェアを世に送り出し、ほぼ手作業で作り続けるのは、町の名前と同じブランド名を持つグスタフスベリだ。
「ふふっ、今日もセクシーだね」
ドイツはベルリン、テンペルホーフ=シェーネベルク区にある『カフェ ヴァルト』。そこには、海外、特に北欧の陶磁器がテーブルウェアとして、多く使われている。北欧のコーヒーの消費量は群を抜いており、特にフィンランドはひとり当たりの年間の豆の消費量がなんと一二キロを超える。これは国民ひとり当たり、一日に四杯ほど飲んでいる計算になる。
「あぁ、ごめんね。ヒューゴとフレイヤは一緒だよね」
そんな『森』を意味するヴァルトの店内。ドイツには閉店法という法律があり、地域によって違いはあるが、お店を閉めなければならない。ベルリンは二四時間営業を認められてはいるが、やっている店はほぼない。日曜日は完全に休みとなるが、年に六回だけは開けていいという、とてもややこしい法律だ。ヴァルトは夜の二〇時には閉店となる。
閉店作業を進めるオリバー・シュバイクホファーは、ヴァルトの中でも比較的最近入った大学生だ。勤務態度は至って真面目、接客は丁寧、人見知りせず従業員とのコミュニケーションもバッチリ。しかしひとつだけ、特殊な性癖がある。それは『テーブルウェアを愛しすぎる』という部分だ。
「妬いちゃダメだよ、ルーカス。キミはフラれたんだから」
カップのひとつひとつに、ソーサーのひとつひとつに、その他陶磁器のテーブルウェアひとつひとつに名前をつけて愛でている。彼にしかわからない違いがそれぞれにあるらしい。ただ、たしかに北欧のテーブルウェアは、手作りであることが多い。職人が手間暇をかけて、少数だけ製造する。
その魂のこもった芸術品を、彼は愛している。もちろん、手作りではないテーブルウェアも愛すが、陶磁器は特別だ。ちなみにルーカスは、モンセスデザインというスウェーデンの食器ブランドのカップ。彼の中で恋愛沙汰に巻き込まれているらしい。丁寧に水垢など残らないよう、磨き上げている。
「ふふっ」
この至福の時間は誰にも邪魔させない。最近、なにやら新しいオーナーに変わったとのことだが、オリバーは陶磁器と触れ合えるならなんでもいい。自分の経済力では、お店のような在庫ほど、収集することはできない。それに、テーブルウェアは使われてこそ輝く、と考えている彼にとっては、この店のこだわりは自分とマッチしている。特に北欧のテーブルウェアは、世界的に見ても好きなブランドが多い。
「ふふふふ」
「怖いですって。なんとかなりません?」
遠くから、同じアルバイトのビロルが、店長代理のダーシャに助けを求める。基本的にいいヤツだ、しかし、この時間の彼は、店長で問題児の高気圧ガール、アニエルカ・スピラよりもある意味で手に負えない。簡単に言えば、さっきのとおり『怖い』。
「まぁ……仕事は一生懸命だし、お店を愛してくれている証拠だから……」
それでもダーシャは考えてしまう。なぜ、ウチには普通の子が来ない?
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