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アニエルカ・スピラと紅茶。
18話
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変わらずに、淡々と、事実だけをユリアーネは述べる。特におかしいことは何もない。
「所有権に関して、年齢は関係ないと思いますが。たとえ生まれたばかりでも、先の通り、手続きを踏めばどなたでもなれるはずです。それに学校も行っています」
「いやいやいやいやいや」
BGBにおいて、たしかに年齢に関しての記述はない。手続きは厄介だが、間に公証人が必ず入るため、連邦公証人法の一条によれば、証書の作成などは全て任せることができる。よって、なにか違法な部分がなければ、譲渡に関する知識はなくとも、誰に対しても譲渡は可能となる。
気が動転しているダーシャに対して、ユリアーネは今後についての提案をしていく。時間は無制限ではない。無駄はできるだけ省く。決定事項だ。
「別にあなたをクビにするというわけではありません。お店が変わるまでの間、いちスタッフとして見させていただきます。場合によっては再雇用もあるかもしれません」
え、マジで? とダーシャは明るい希望を持ったが、それでも唐突に築き上げてきた店がこんな簡単になくなるのは避けたい。というか、給料の面でも、雇用されてもアルバイトの給料じゃやっていけない。一応、いつかのための結婚資金などは貯めたいのだ。いつか。
「ちょっと待ってよ……えぇ……?」
なにか、なにか抜けているところがあるのではないか。必死にダーシャは考えるが、そもそも雇われているだけの自分が法律になんて詳しいわけはなく、聞いたことがあることを頭の中で整理し、閃いたらとりあえず言うことにする。なんだっけ、あれだ!
「……! 待って、たしかバイエルン法だと、債権契約の……公正証書は……これから作成か……」
公正証書は、先ほど言っていた、所轄官庁への表明後に必要となる。オーナーと表明に行ってきた後。つまり今はなくてもいい。反論が見当たらない。失業保険も、たしか手取りの六〇パーセント程度だったはず。子供がいればもう少しもらえるが、言っても仕方ない。相手もいない。なぜいない!? 様々なことが脳裏をよぎる。
「そういうことです。まぁ、悪いオーナーに当たってしまったと思って諦めてください」
感情の起伏もなく、ユリアーネは話を進める。
「いや、僕もう四〇近いんですけど……今から再就職も……」
半ば、この店のそのままでの存続は諦めるしかないと判断したダーシャは、最後の抵抗を試みる。効果はないとわかってはいるが、とりあえずやるだけはやる。
「雇用されるようアピールしてください」
というようなダーシャの考えを断ち切るような、ユリアーネの割り切り。彼女からしてみれば、別にダーシャに対して悪い印象はないため、カフェ経験者がひとりでもいてくれるのであれば心強い。しかし。
「ここのスタッフの方々ですが……先ほども拝見させていただきましたが、勤務中に抜け出してお喋りは感心しません。ホールに出ていた方は……まぁ、及第点ではありますが、この際ですから全員入れ替えも検討します。ただ、オーナーさんからは、店長はそのまま働かせてやってほしいとのことで、それはお引き受けしました」
「所有権に関して、年齢は関係ないと思いますが。たとえ生まれたばかりでも、先の通り、手続きを踏めばどなたでもなれるはずです。それに学校も行っています」
「いやいやいやいやいや」
BGBにおいて、たしかに年齢に関しての記述はない。手続きは厄介だが、間に公証人が必ず入るため、連邦公証人法の一条によれば、証書の作成などは全て任せることができる。よって、なにか違法な部分がなければ、譲渡に関する知識はなくとも、誰に対しても譲渡は可能となる。
気が動転しているダーシャに対して、ユリアーネは今後についての提案をしていく。時間は無制限ではない。無駄はできるだけ省く。決定事項だ。
「別にあなたをクビにするというわけではありません。お店が変わるまでの間、いちスタッフとして見させていただきます。場合によっては再雇用もあるかもしれません」
え、マジで? とダーシャは明るい希望を持ったが、それでも唐突に築き上げてきた店がこんな簡単になくなるのは避けたい。というか、給料の面でも、雇用されてもアルバイトの給料じゃやっていけない。一応、いつかのための結婚資金などは貯めたいのだ。いつか。
「ちょっと待ってよ……えぇ……?」
なにか、なにか抜けているところがあるのではないか。必死にダーシャは考えるが、そもそも雇われているだけの自分が法律になんて詳しいわけはなく、聞いたことがあることを頭の中で整理し、閃いたらとりあえず言うことにする。なんだっけ、あれだ!
「……! 待って、たしかバイエルン法だと、債権契約の……公正証書は……これから作成か……」
公正証書は、先ほど言っていた、所轄官庁への表明後に必要となる。オーナーと表明に行ってきた後。つまり今はなくてもいい。反論が見当たらない。失業保険も、たしか手取りの六〇パーセント程度だったはず。子供がいればもう少しもらえるが、言っても仕方ない。相手もいない。なぜいない!? 様々なことが脳裏をよぎる。
「そういうことです。まぁ、悪いオーナーに当たってしまったと思って諦めてください」
感情の起伏もなく、ユリアーネは話を進める。
「いや、僕もう四〇近いんですけど……今から再就職も……」
半ば、この店のそのままでの存続は諦めるしかないと判断したダーシャは、最後の抵抗を試みる。効果はないとわかってはいるが、とりあえずやるだけはやる。
「雇用されるようアピールしてください」
というようなダーシャの考えを断ち切るような、ユリアーネの割り切り。彼女からしてみれば、別にダーシャに対して悪い印象はないため、カフェ経験者がひとりでもいてくれるのであれば心強い。しかし。
「ここのスタッフの方々ですが……先ほども拝見させていただきましたが、勤務中に抜け出してお喋りは感心しません。ホールに出ていた方は……まぁ、及第点ではありますが、この際ですから全員入れ替えも検討します。ただ、オーナーさんからは、店長はそのまま働かせてやってほしいとのことで、それはお引き受けしました」
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