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アニエルカ・スピラと紅茶。
14話
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そう言いながら、ちんまりと座ったユリアーネの前に、コトッ、と優しくカップを置く。
しかし、ユリアーネは目を丸くしてアニーとカップに交互に視線を向ける。
「……あの、これって」
「フレーデルブロンムルと紅茶のグラニテです。これも紅茶です」
と、自信満々に両手を広げてアニーは推す。
グラニテ。フランス料理にデザートとして出てくるシャーベット。氷の粒が荒く、ジャリジャリとした食感が楽しめ、すっきりとしていて糖度は低い、イタリア生まれの氷菓。ソーサーに乗って、浅めのクリアなディッシュに盛られている。
たしかに、少しさっぱりしたものが欲しかったユリアーネは、心がざわつく。これは、どう受け取っていいのか。予想外のものが出てきて、驚いている。それに。
「……フレーデルブロンムル、初めて聞いた名前ですね」
レモンのような爽やかな黄色に、ほんのり紅茶の褐色が混じり、見事なグラデーションになっている。見た目にも鮮やかで、食べるのがもったいないとすら思えた。固い氷を使っているのか、水っぽさはない。
またも対面席に座り、アニーは指で写真の構図を切り取る。涼を取る美少女、うん、映える。
「そうっスか? ボクの地元って、イギリスとか北欧が近いので、結構交流あるんですけど、スウェーデンでは夏至の時とかにジュースにして飲んだりします」
違う構図を探りつつ、花の知識を伝える。別名エルダーフラワーといい、ゼリーやハーブティーなどにも使用され、広く親しまれている野生の花。見ても嗅いでも食べても、なににしても汎用性のある逸品だ。
黄色い部分をスプーンでひと掬いし、ユリアーネは口に運ぶ。舌の上で細かな粒がぶつかり、その風味が鼻に抜ける。穏やかで優しく、控えめな甘さ。口の中に、春のうららかな陽気が迷い込んだようだ。
「そうなのですか……フルーティで爽やかで、心が落ち着きます」
ふた掬いし、再度、味を楽しむ。今度は褐色の紅茶部分。こちらもフレーデルブロンムルとはまた違う、ほのかな甘さと紅茶の渋みで、味に飽きがこない。さらに、混ぜるとまた違った味がする。いくらでもいけそうだ。目を閉じると、より複雑な味が見えてくる。
「美味しいです。実は少し涼が欲しくて。初めての味ですけど、クセになりそうです」
ご満悦な様子を見て、アニーもニカっと笑う。口に合うのかはわからなかったが、パクパク食べてくれているのを見ると、お世辞ではないようだ。自分の勘は当たった、と内心でガッツポーズする。
「スウェーデンには自然享受権というのがあって、道端に咲いてるフレーデルブロンムルは勝手に摘み取っていいんです。ジャムとかシロップにもするんですよ」
ユリアーネはスウェーデンの知識はほとんどなかったが、少し興味が湧いてきた。ほのかにマスカットを思わせる香りで、香水などにも使えそうな、しばらく嗅いでいたくなる香り。しかし疑問点がひとつ。
「あれだけ紅茶を推してくるので、ティーかと思ってました」
紅茶、といえばもちろんティーカップに注がれた、砂糖やミルクやレモンを入れて楽しむ飲料を想像するだろう。それに、外はだいぶ冷え込んできていて、店内でもホットコーヒーなどの温かい飲み物を頼んでいる人が目立つ。コーヒー党のユリアーネはあまり紅茶を飲まないが、嫌いというわけではない。この店の紅茶はどんな味なのか、そわそわしながら待っていた。
が、出てきたのはなんとアイスシャーベット。とはいえ、少し厚着しすぎたのか、うっすら汗ばんでいたのは事実で、アイスが食べたかったのは本当のこと。偶然にもそれが合致した。
アニーは数分前を思い返し、理由を述べた。
しかし、ユリアーネは目を丸くしてアニーとカップに交互に視線を向ける。
「……あの、これって」
「フレーデルブロンムルと紅茶のグラニテです。これも紅茶です」
と、自信満々に両手を広げてアニーは推す。
グラニテ。フランス料理にデザートとして出てくるシャーベット。氷の粒が荒く、ジャリジャリとした食感が楽しめ、すっきりとしていて糖度は低い、イタリア生まれの氷菓。ソーサーに乗って、浅めのクリアなディッシュに盛られている。
たしかに、少しさっぱりしたものが欲しかったユリアーネは、心がざわつく。これは、どう受け取っていいのか。予想外のものが出てきて、驚いている。それに。
「……フレーデルブロンムル、初めて聞いた名前ですね」
レモンのような爽やかな黄色に、ほんのり紅茶の褐色が混じり、見事なグラデーションになっている。見た目にも鮮やかで、食べるのがもったいないとすら思えた。固い氷を使っているのか、水っぽさはない。
またも対面席に座り、アニーは指で写真の構図を切り取る。涼を取る美少女、うん、映える。
「そうっスか? ボクの地元って、イギリスとか北欧が近いので、結構交流あるんですけど、スウェーデンでは夏至の時とかにジュースにして飲んだりします」
違う構図を探りつつ、花の知識を伝える。別名エルダーフラワーといい、ゼリーやハーブティーなどにも使用され、広く親しまれている野生の花。見ても嗅いでも食べても、なににしても汎用性のある逸品だ。
黄色い部分をスプーンでひと掬いし、ユリアーネは口に運ぶ。舌の上で細かな粒がぶつかり、その風味が鼻に抜ける。穏やかで優しく、控えめな甘さ。口の中に、春のうららかな陽気が迷い込んだようだ。
「そうなのですか……フルーティで爽やかで、心が落ち着きます」
ふた掬いし、再度、味を楽しむ。今度は褐色の紅茶部分。こちらもフレーデルブロンムルとはまた違う、ほのかな甘さと紅茶の渋みで、味に飽きがこない。さらに、混ぜるとまた違った味がする。いくらでもいけそうだ。目を閉じると、より複雑な味が見えてくる。
「美味しいです。実は少し涼が欲しくて。初めての味ですけど、クセになりそうです」
ご満悦な様子を見て、アニーもニカっと笑う。口に合うのかはわからなかったが、パクパク食べてくれているのを見ると、お世辞ではないようだ。自分の勘は当たった、と内心でガッツポーズする。
「スウェーデンには自然享受権というのがあって、道端に咲いてるフレーデルブロンムルは勝手に摘み取っていいんです。ジャムとかシロップにもするんですよ」
ユリアーネはスウェーデンの知識はほとんどなかったが、少し興味が湧いてきた。ほのかにマスカットを思わせる香りで、香水などにも使えそうな、しばらく嗅いでいたくなる香り。しかし疑問点がひとつ。
「あれだけ紅茶を推してくるので、ティーかと思ってました」
紅茶、といえばもちろんティーカップに注がれた、砂糖やミルクやレモンを入れて楽しむ飲料を想像するだろう。それに、外はだいぶ冷え込んできていて、店内でもホットコーヒーなどの温かい飲み物を頼んでいる人が目立つ。コーヒー党のユリアーネはあまり紅茶を飲まないが、嫌いというわけではない。この店の紅茶はどんな味なのか、そわそわしながら待っていた。
が、出てきたのはなんとアイスシャーベット。とはいえ、少し厚着しすぎたのか、うっすら汗ばんでいたのは事実で、アイスが食べたかったのは本当のこと。偶然にもそれが合致した。
アニーは数分前を思い返し、理由を述べた。
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