Sonora 【ソノラ】

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ヴォランテ

230話

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 ざっくばらんに打ち明けてくれているため、お返しにベルもできる限りの自身の情報を。少し慌てる。

「えっと、私は、ピアノとフローリスト。とは言っても、まだフローリストのほうは駆け出しだから、やっていると言っていいのかわからないけど……」

 ならばピアノはしっかりとやれているのか、と問われると、なんとも返しづらい。学校での講義は受けてはいるが、花と並行しているためそれぞれが中途半端になっている、かもしれない。語尾が窄んでいく。

 少しのけぞり、言葉の把握に時間をかけるジェイド。フローリスト、ということは……花。

「……なるほど。ちょっと待ってて」

 専門家がいるなら話は早い。作品のラストピース。迷っていた部分。なにかヒントがあれば。

「絶対にどうでもいいことを考えついたやつね。あんま相手にしちゃダメよ。なんらかの形で手伝え、って言ってくるだろうから」

 思考を先読みしたオードが釘を刺す。もう何度感じた空気だろうか。

「手伝う? 私が? どうやって?」

 自分に何かができる、とはベルは思わない。アドバイスを求めるなら、シャルルくんかベアトリスさん。逆に変なことを言ってしまう可能性があるため、黙っていたほうがいいのかも、とさえ。

 会話していて忘れていたスモアを食しながら、オードは安寧を保とうとする。

「それはわからないけど。座右の銘が『他力本願』みたいなヤツだから、断ることも必要。てか断れ」

 あと、ムカつくけど流石に美味い。本当にあいつが作ってるの?

 助言をもらったベルだが、手放しに賛同はできない。というのも。

「……それを言ったら私もオードに他力本願してるかも……」

 救いの手を差し伸べてもらっている。ならば、やっていることは一緒? だとしたら、助け合いの精神は必要。

 はぁー、っと長く息を吐き、その優しさは不要と念を押すオード。

「あいつは程度が違うのよ。ベルの場合は『教わって活かそう』。あいつは『とりあえずよろしく。首を縦に振らない限り、おはようからおやすみまで見守る』って感じ」

 ゾクっと悪寒が走る。例えで言ったつもりだが、本当にやりそう。三食しっかりウチで食い荒らして。

 どんどんと暗雲が立ち込めてきたことを察したベル。その元凶が去っていった方向をガバッと振り返る。

「……もしかして、恩を売られようとしてる?」

 多少はジェイド・カスターニュという人物がどういうものなのかは把握しているオードは、声を顰めた。

「かもね。しかもクーリングオフの効かないヤツ。御愁傷様」

 これで被害者は自分を含め二人。いや、知らないだけでもっといるかも——。
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