Sonora 【ソノラ】

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ヴォランテ

222話

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 とても怖い夢を見ていた。自分にとって大切な人が、大切なものを奪われる、そんな夢を——。

「それと、自分が忘れ去られているような」

 挨拶よりも先に。〈ソノラ〉に到着したベルは店主に詰め寄って問題を発起した。そんな不安に駆られた結果の出来事。

 はぁ? と、欠伸をしながらベアトリスは反論。

「別に。お前がいなくても店はまわるからな。というかなんだ? なにか不都合があるのか?」

 ここはフラワーアレンジメント専門店〈ソノラ〉。色彩豊かな花に囲まれながら、今日も店主は機嫌が悪い。

「……いえ、そういうわけではない……と思うんですけど……」

 ベルは自分でもよくわからない、衝動のようなもの。だが、なんとなく当たっている気がする。シャルルになにかあって。そして、自分がいないにも関わらず、しっかりと話が進んでしまうような。そんな胸に虫がいて、ザワつくような。

 心当たりがないこともないが、心配されるほど落ちぶれてはいない。ベアトリスは場を整える。

「しょうもないことを言うな。そろそろ花屋は忙しくなってくる時季なんだから、あまり私を困らせるなよ」

 ノエルの近づく一一月。むしろ本番よりも今のほうが断然仕事が増える。

 キョトン、と合点がいかないベル。

「忙しく、ですか? 今?」

 むしろ少し余裕はある、程度に考えていた。何事?

 その理由をベアトリスが説明。毎年のこと。よく勘違いされる。

「ノエルが近づくと、様々な店や家のファサードに飾るような、ガーランドの注文が増えてくる。リースとかな。造花やプリザーブドなんかで来年以降も使えるようなものもあるが、生花やドライフラワーの場合は毎年取り替えるわけだ」

 言われてみれば。店内を見回してみると、ベルの目に飛び込んでくるのは、いつの間にか数を増やしていたそれら。アレンジメントに隠れがちだが、数日前までほとんどなかったはず。

「なるほど……たしかに。結構手間がかかりそうですよね……」

 さらにここは『おまかせ』専門店。フラワーアレンジメントで自由に作るほうが、やりやすさは遥かに上。使われる素材も偏りが出てきてしまう。

「そうだ。だから、一一月も半ばを過ぎたら、私はこっちを作ることが多い。あまり個人は受けることができないかもな」

 ようやくわかったか、と今日の仕事のスイッチをベアトリスは再度入れる。細々した雑用はやらせて、自分は注文をもらったものに取り掛かる。その流れで今日はいこう。

 しかし、ソワソワと落ち着きなく、ベルは体を小さく揺らす。

「……」

 弱く唇を噛み、目はキョロキョロとガーランドやリースを捉える。ふむふむ、なるほどなるほど。
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