Sonora 【ソノラ】

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マルカート

221話

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 今、弟の心を支配するのはあいつ。ベアトリスとしては許せぬ狼藉。となると、選択肢を与えてみる。

「あいつを亡き者にするか、忘れるまで頭をカチ割られるか。選べ」

「いや、過激派」

 提唱する極端すぎる二択に、流石のシャルルも即座にノン。というか頭を叩かれる、とかではなくカチ割られるの? 忘れるまでと言われても、一回で終わらない? 僕の人生。

 どちらもダメ。なら仕方ない。とならないのがベアトリス。静かに立ち上がる。

「最終手段だ。これだけは使いたくなかったが。お前も立て」

「……どういうこと?」

 とりあえず言われるがままシャルルは起立。なにが始まるのか。だいたい良くないこと。この予想は当たる。たぶん。

 またも失望のような嘆息をするベアトリス。そしてそのまま弟の横へ。移動すると、両肩を掴む。

「マイナスとマイナスをかけてプラスにする。数学の話だ。これしかないだろう」

 つまり要約すると。お互いに辱められた部分と部分を。合わせるしかない。そういうこと。仕方なしに。はぁ。仕方ない。

 いや、どういうこと? と、シャルルは両手首を掴んで拘束を解く。

「使いたくない、ってわりには随分乗り気な気もしたけど……」

 ひとまず回避。というか、上手く話を逸らされた気がする。でも、そのおかげであの人が、幸せな気持ちで扉を出ていけたなら。それでいいか、と落ち着く。自分達の仕事。それは花を介して幸せにすることなのだから。

 またもあしらわれ、ムスッと機嫌の悪くなるベアトリス。まぁ、いつでもチャンスはある。焦る必要もない。ポケットからひとつ、あるものを取り出し手渡す。

「それでも噛んでおけ。なにもないよりマシだろう」

 それは一枚の板ガム。パッケージの紙に豆のマーク。

 受け取り、戸惑いながらもシャルルは中身を把握。とりあえず感謝。

「コーヒー味。こんなのあるんだ」

 フルーツやミントなんかが主流だが、初めて見る味。シャルルは味の予想をしてみるが、うん、中々合うんじゃないかな? と好感触。

「もらったが私はいらん」

 そもそも本物を飲んでいるベアトリス。さらに追いコーヒーは必要ない。あとで感想だけ聞いておこうか。今日も閉店。お疲れ様。そろそろ店内もノエル仕様に変えよう。色々考え、ゆっくりと歩きながらアレンジメントを眺める。この時間が好きだ。

 サラセニア。本当の花言葉は『変わり者』。そして『憩い』。

 花はいつか枯れる。だから残せるものは記憶、思い出だけ。いつまでも彼は覚えてくれているのだろうか。あの花の色彩と。甘い蜜の香りを。
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