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マルカート
212話
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「『ただ生きているだけでは不十分だ。人は太陽、自由、そして小さな花を持っていなければならない』」
様々なアレンジメントに囲まれた花屋、八区の〈ソノラ〉。その店名の意味するところは『音』。ほんの小さな花の音、声を届けることを信条とした、アレンジメント専門店。その店内で床にあぐらをかいて座り、白いシャコバサボテンに触れながら、店主のベアトリスは呟いた。
弟であるシャルルの耳にも届いたその名言。デンマークの童話作家であり詩人でもある人物の横顔が目に浮かぶ。
「……アンデルセン?」
ハンス・クリスチャン・アンデルセン。『人魚姫』や『マッチ売りの少女』などで知られる、童話作家としての第一人者。その人。最近お気に入りの紅茶をひと口。
ひとつ『ひねくれ者』の意味を持つその花をベアトリスは手に取る。サボテンにしては珍しく、冬に花をつける品種。
「太陽はわかる。自由もなんとなく。だが、小さな花。それがわからない。もう見つけているのか、持っていないのか、取りこぼしてしまったのか。私なんてまだまだ半人前だ」
人によって違う、心に咲く花。持っている人はどうやって。だが、所詮それは他人の花、自分のものではない。参考になるのか、それもわからない。生涯をかけて探す旅。案外近くにあるものなのかもしれないし、地球の真裏にあるのかも。
なんとなく、姉から弱気を悟るシャルル。目をまん丸にしてその背中を凝視。
「珍しいね。なにかあったの?」
心配、というよりかは、人間味のようなものを感じられて嬉しい、というほうが近い。自然と笑む。
なぜだかその上から目線が気に入らない。気を取り直したベアトリスは、立ち上がりそのまま弟に頭突き。そしてお互いによろける。
「……あると思うか? 私はいつも通りだ」
額はヒリヒリとする。が、少し衝撃で活力が戻ってきたかもしれない。ひたむきに、愚直に『愛』を伝えようとする花。自分にはないもので、羨ましく思ったのか。
顔を顰めつつ、それもシャルルはやはり少し嬉しい。いつも通りどころか、いつもより攻撃的。奥歯を噛み締める。
「……よかった、のかな?」
姉の機嫌にも正解はない。が、痛みがある時は大体平常運行。なんとか今日も〈ソノラ〉は開店できそうだ。
そこへ。
「どうどう、迷える子羊達」
暴れ馬や牛を宥める掛け声をあげながら、店内に入ってくる人影あり。羊にも効果はあるのだろうか。そんな細かいことは気にせず、不穏な笑みでファッションモデルのようなウォーキング。
様々なアレンジメントに囲まれた花屋、八区の〈ソノラ〉。その店名の意味するところは『音』。ほんの小さな花の音、声を届けることを信条とした、アレンジメント専門店。その店内で床にあぐらをかいて座り、白いシャコバサボテンに触れながら、店主のベアトリスは呟いた。
弟であるシャルルの耳にも届いたその名言。デンマークの童話作家であり詩人でもある人物の横顔が目に浮かぶ。
「……アンデルセン?」
ハンス・クリスチャン・アンデルセン。『人魚姫』や『マッチ売りの少女』などで知られる、童話作家としての第一人者。その人。最近お気に入りの紅茶をひと口。
ひとつ『ひねくれ者』の意味を持つその花をベアトリスは手に取る。サボテンにしては珍しく、冬に花をつける品種。
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なんとなく、姉から弱気を悟るシャルル。目をまん丸にしてその背中を凝視。
「珍しいね。なにかあったの?」
心配、というよりかは、人間味のようなものを感じられて嬉しい、というほうが近い。自然と笑む。
なぜだかその上から目線が気に入らない。気を取り直したベアトリスは、立ち上がりそのまま弟に頭突き。そしてお互いによろける。
「……あると思うか? 私はいつも通りだ」
額はヒリヒリとする。が、少し衝撃で活力が戻ってきたかもしれない。ひたむきに、愚直に『愛』を伝えようとする花。自分にはないもので、羨ましく思ったのか。
顔を顰めつつ、それもシャルルはやはり少し嬉しい。いつも通りどころか、いつもより攻撃的。奥歯を噛み締める。
「……よかった、のかな?」
姉の機嫌にも正解はない。が、痛みがある時は大体平常運行。なんとか今日も〈ソノラ〉は開店できそうだ。
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