199 / 235
マルカート
199話
しおりを挟む
「とりあえず、ラフマニノフ『ヴォカリーズ』、やっとく?」
せっかく道具もあるし、とカルメンから提案されました。ピアノとコントラバスだけとなると、この曲は外せません。管弦楽やピアノ独奏版など多種にわたる曲ではありますが、コントラバスが一番甘く響く曲は、これなのではないか、と自分は思います。
とはいえ、自分にはカルメンと並べるだけのコントラバスの腕前はありません。才能、なんて言葉で片付けるのも好きではないですが、たしかに存在してしまう、常人との壁のようなものは実感しています。ですが、そんな泣き言を言うために音楽科に入ったわけではありません。
「……いいんじゃない。全然下手だけど。フレデリックらしい音」
真ん中のひと言は必要だったでしょうか。ともかく弾き終わりにそんな感想をいただきました。そうです、自分の音は、あのライナー・ツェペリッツも、ロン・カーターも出せないのであります。自分は世界一を目指しているわけではないのです。
「というか。さっさと告白してフラれちゃえばいいんじゃないの。無理だと思うし」
なにを言うかこの娘は。ちなみにカルメンは、自分があの子に気があるのを話している、数少ない人物でもあります。こやつは恋というものをしたことがないので、こういうことが言えるのです。そうに違いない。おい、ブラームスの『ピアノソナタ第三番』を弾くな。第四楽章でフラれるやつだそれ。
しかし現実問題。接点もないですし、向こうは自分のことを知らないと思われます。カルメンには、自分から接近していくから、仲を取り持つとかはしないように、と言い伝えてあります。なので、自分自身で道を切り開いていかなければなりません。
「花屋でバイトしてる。あの子。そういう情報だったら流せるけど」
褒めてつかわす。しかし、講師の方々から聞いた話ではありますが、彼女は昔からコンクールなどでいい成績を残す常連だったようですが、いい意味で変わってきた、より表現力が上がったと。自分はそこまでわかる耳は持っていないのですが、とりあえず『なるほど』と言っておきました。
その花屋での経験が活きているのでしょうか。音には感情が乗ります。そしてフランスといえば花。精神的にひと皮剥けるような、そんな体験があるのかもしれません。花だけに。忘れてください。
なんだったか。花で思い出しましたが、たしかバッハか誰かの曲名の花屋があった気がします。国家最優秀職人章、通称M.O.Fの方のお店で。名前は……リオネル・ブーケ氏。藁にもすがる思いです。なにかいい方法はないか、一度お店のほうに行ってみる、という手もありますが、そんな簡単にお会いできるのでしょうか。
せっかく道具もあるし、とカルメンから提案されました。ピアノとコントラバスだけとなると、この曲は外せません。管弦楽やピアノ独奏版など多種にわたる曲ではありますが、コントラバスが一番甘く響く曲は、これなのではないか、と自分は思います。
とはいえ、自分にはカルメンと並べるだけのコントラバスの腕前はありません。才能、なんて言葉で片付けるのも好きではないですが、たしかに存在してしまう、常人との壁のようなものは実感しています。ですが、そんな泣き言を言うために音楽科に入ったわけではありません。
「……いいんじゃない。全然下手だけど。フレデリックらしい音」
真ん中のひと言は必要だったでしょうか。ともかく弾き終わりにそんな感想をいただきました。そうです、自分の音は、あのライナー・ツェペリッツも、ロン・カーターも出せないのであります。自分は世界一を目指しているわけではないのです。
「というか。さっさと告白してフラれちゃえばいいんじゃないの。無理だと思うし」
なにを言うかこの娘は。ちなみにカルメンは、自分があの子に気があるのを話している、数少ない人物でもあります。こやつは恋というものをしたことがないので、こういうことが言えるのです。そうに違いない。おい、ブラームスの『ピアノソナタ第三番』を弾くな。第四楽章でフラれるやつだそれ。
しかし現実問題。接点もないですし、向こうは自分のことを知らないと思われます。カルメンには、自分から接近していくから、仲を取り持つとかはしないように、と言い伝えてあります。なので、自分自身で道を切り開いていかなければなりません。
「花屋でバイトしてる。あの子。そういう情報だったら流せるけど」
褒めてつかわす。しかし、講師の方々から聞いた話ではありますが、彼女は昔からコンクールなどでいい成績を残す常連だったようですが、いい意味で変わってきた、より表現力が上がったと。自分はそこまでわかる耳は持っていないのですが、とりあえず『なるほど』と言っておきました。
その花屋での経験が活きているのでしょうか。音には感情が乗ります。そしてフランスといえば花。精神的にひと皮剥けるような、そんな体験があるのかもしれません。花だけに。忘れてください。
なんだったか。花で思い出しましたが、たしかバッハか誰かの曲名の花屋があった気がします。国家最優秀職人章、通称M.O.Fの方のお店で。名前は……リオネル・ブーケ氏。藁にもすがる思いです。なにかいい方法はないか、一度お店のほうに行ってみる、という手もありますが、そんな簡単にお会いできるのでしょうか。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。



イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる