Sonora 【ソノラ】

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マルカート

199話

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「とりあえず、ラフマニノフ『ヴォカリーズ』、やっとく?」

 せっかく道具もあるし、とカルメンから提案されました。ピアノとコントラバスだけとなると、この曲は外せません。管弦楽やピアノ独奏版など多種にわたる曲ではありますが、コントラバスが一番甘く響く曲は、これなのではないか、と自分は思います。

 とはいえ、自分にはカルメンと並べるだけのコントラバスの腕前はありません。才能、なんて言葉で片付けるのも好きではないですが、たしかに存在してしまう、常人との壁のようなものは実感しています。ですが、そんな泣き言を言うために音楽科に入ったわけではありません。

「……いいんじゃない。全然下手だけど。フレデリックらしい音」

 真ん中のひと言は必要だったでしょうか。ともかく弾き終わりにそんな感想をいただきました。そうです、自分の音は、あのライナー・ツェペリッツも、ロン・カーターも出せないのであります。自分は世界一を目指しているわけではないのです。

「というか。さっさと告白してフラれちゃえばいいんじゃないの。無理だと思うし」

 なにを言うかこの娘は。ちなみにカルメンは、自分があの子に気があるのを話している、数少ない人物でもあります。こやつは恋というものをしたことがないので、こういうことが言えるのです。そうに違いない。おい、ブラームスの『ピアノソナタ第三番』を弾くな。第四楽章でフラれるやつだそれ。

 しかし現実問題。接点もないですし、向こうは自分のことを知らないと思われます。カルメンには、自分から接近していくから、仲を取り持つとかはしないように、と言い伝えてあります。なので、自分自身で道を切り開いていかなければなりません。

「花屋でバイトしてる。あの子。そういう情報だったら流せるけど」

 褒めてつかわす。しかし、講師の方々から聞いた話ではありますが、彼女は昔からコンクールなどでいい成績を残す常連だったようですが、いい意味で変わってきた、より表現力が上がったと。自分はそこまでわかる耳は持っていないのですが、とりあえず『なるほど』と言っておきました。

 その花屋での経験が活きているのでしょうか。音には感情が乗ります。そしてフランスといえば花。精神的にひと皮剥けるような、そんな体験があるのかもしれません。花だけに。忘れてください。

 なんだったか。花で思い出しましたが、たしかバッハか誰かの曲名の花屋があった気がします。国家最優秀職人章、通称M.O.Fの方のお店で。名前は……リオネル・ブーケ氏。藁にもすがる思いです。なにかいい方法はないか、一度お店のほうに行ってみる、という手もありますが、そんな簡単にお会いできるのでしょうか。
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