Sonora 【ソノラ】

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トランクイロ

195話

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 だがどうしても、これがベルには必要だった。ここに来た目的。最初はこれのためだったのだから。

「シャンパングラス。私達が初めて会った時、シードルをごちそうしてもらいました。原点を忘れないように。それに、シャンパンの泡を星に見立てて『星を飲む』、なんて言い方もするそうです」

 思い出すだけで、リンゴの香りが鼻腔をつく。ちょっとした豆知識も交えつつ、これで全て揃った。グラスに三つの星を投入し、ギボウシでバランスを整える。高くなりすぎないように。

「星を……」

 それは初めて聞いた、とシャルルも唸る。今後、自身もアレンジメントの際のなにかに使えるかもしれない。いいアイディアは盗むに尽きる。

 店の力関係で言えばここではバーベナを手前に持ってきたいところだが、自分自身を表現するのであれば、ベルは当然キノブランを目立つように。宣戦布告でもある。

「三つの星、その頂点に立つのは私です。いつか」

 この人から仕事を奪えるくらいのフローリストに。真っ直ぐ見据える瞳の先に目標がある。今は無理でも。必ず。内心では「言っちゃった……」と冷や汗が流れる。

 言いたいことはわかった。なんとも複雑な感情。唇を尖らせたベアトリスは指示。

「……喉が渇いたな。シャルル、ディアボロがキーパーにある。注いでくれ」

「またそんな使い方」

 シードルももちろんあるが、今回はレモネードにミントシロップを加えたディアボロマント。本来は花を冷やしておくための場所の間違った使用方法に、真面目なシャルルは反発する。が、言っても無駄なので指示されたとおりにしてしまう。

 目の前に注がれた透明な美しい緑色の液体。それに目を奪われながらもベルは感想を要求する。

「……で、どうですか?」

 というかディアボロ美味しそう。喋り続けたこと、緊張、少しの気の緩み。口元がムズムズと揺れる。

 そんな視線に気づきつつも、ゆっくりと、緑に輝く液体をストローで飲み込むベアトリス。喉が音を鳴らす。

「……ん? お前がそれでいいならいいんじゃないか? 私に言われても困る」

 そもそも、己をイメージしたものなのだから、点数は自分でつけろ、と突き放した。やはりほんのりと汗ばむくらいで飲むディアボロは美味い。

 しかし当然戸惑うベル。言われたことと違う。いつものような気もするが。

「え、だって『見せてみろ』って……」

「そんなこと言ったか? まぁ、自分なりのフローリスト像が見えたのならそれでいいだろ。優劣をつけるものじゃない」

「でも——」

 その先を言いかけて、半開きになったベルの口。
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