Sonora 【ソノラ】

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トランクイロ

194話

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 笑みを浮かべ、鍵盤を思い浮かべたベル。指を動かす。

「ヴィラ=ロボス『三つの星』。白なのも、輝いているという意味も込めて」

 それぞれ、輝き方の違う星。誰かを真似るということよりも、自分だけの輝きを。アドバイスは参考程度にだけで留めておく。

 自分だったら。その比較をしつつ思考するベアトリスだが、その表情は晴れない。

「なるほど。だがこれだけだと、ただ人を当てはめただけだ。まだなにかあるな。そうだろ?」

 フローリストとしてどう成長していくか。その道筋が見えない。ここで終わりだったら説教してやる。

 だがそのあたりも抜かりはない。しっかりと準備はできているベル。まだ心は落ち着かないけど。唇を舐める。

「はい。シャルルくんから教わった、ハランを使った花留め。そしてラインフラワーとして、こちらを使います。これが私の……シンコペーションです」

 そうして近場のバケツから取り出したのは、このアレンジメントの肝の部分。たった一日しか咲かない白い花を、真っ直ぐ伸びた茎にいくつもつける。筒状のつぼみが先端から膨らんでいく多年草。

 その伝えたいこと。ベアトリスにはしっかりと伝播する。

「……面白い。それがお前にとってのフローリスト、ということか」

 大きな葉も特徴的で使いやすい、重宝する花。緑があることでアレンジメントが引き締まる。そこまで考えているなら、及第点はやってもいい。

 その花の名はシャルルから語られる。姉と目が合う。

「ギボウシ……その花言葉は——」

「——『沈黙』。話したいことは花が語ってくれますから。私というフローリストは『多くの言葉で少しを語らず、少しの言葉で多くを語る』ことが重要なんじゃないかって。だから、今まで口で語っていたことを沈黙してみよう、と」

 聞く、ということは、簡単なようで実はコツがいること。そして聞く、のではなく相手を『知る』こと。理解するための会話。心がけること。すぐ言葉にするのではなく、時にはあえて沈黙で語る。

 先の名言に聞き覚えのあるベアトリス。なにか観念したかのように、脱力しながら表情を緩めた。

「ピタゴラスだな。彼は音楽にも通じていた、という話だ。あとは仕上げだ。これをどんな花器に入れる?」

 ある意味で、一番大事な要素でもある花器。料理は皿と一緒でこそ。花も花器とお互いに引き立て合うように。

 その問いに対してのベルの答え。イスから立ち上がると、自身でレジ横まで歩を進める。そしておもむろにキーパーを開けると、足元付近にある、キンキンに冷えたものを取り出した。

「それはこの——」

「……それは私のだ」

 想像以上に図々しく成長している弟子に、ベアトリスは苦言を呈す。
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