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トランクイロ
193話
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なんとなく、目の前の人が楽しそうにしているのはベルも感じとっている。やっとここで覚悟が決まる。ここまできたらそのまま突っ切るしかない、と。
「となると、メインとなる花は三つ。バーベナ、ホトトギス、キノブラン。全て白で統一しました」
二五〇の野生種を持つマスフラワーであるバーベナ。その花言葉は——。
「『魔力』。これは私のことか?」
褒められているのか、恐れられているのか。不可思議な表情でジロリと相手を見つめるベアトリス。まさか弟のことではないだろう。
一瞬ドキッとするベルだが、それも予想済み。否定してもバレるので、あっさりと認める。冷や汗が背中に流れつつ。
「はい。『尊敬』や『憧れ』のような花言葉よりも、自分にとってのベアトリスさんの像は、どこか遠くにある存在で。こちらのほうが正しいかと」
あとでなにかしらの方法で制裁を受けるだろう。魔女裁判。覚悟の上。
そのままバーベナを、お喋りな口にねじ込んでやろうかと考えたベアトリスだったが、ぐっと堪えて冷めた紅茶を飲む。
「で? ホトトギスは? どうせシャルルだろう」
あからさまに機嫌が悪くなる。それもそのはず。
日本固有種であるホトトギス。白地に紫の斑点のあるフォームフラワー。花言葉は——。
「……『永遠にあなたのもの』……」
言っていてシャルルは自分で恥ずかしい。赤くなった顔をそらす。今後、この花を使うときにはいつまでも思い出すだろう。
さらに眉間に皺がよったベアトリス。声に怒気がこもる。
「キノブラン。さっさと言え」
全部この先の考えを言ってやろうか迷ったが、足を組んで耐え忍ぶ。膝をトントンと指で叩いて催促まで。
スターチスキノブラン。大きく白い花のような部分が実は『ガク』であり、内部の黄色い部分が『花』という、少し変わったラインフラワー。
「フェイクのようなところが自分らしいなって。まだフローリストになりきれていない」
それが自分にピッタリだ、とベルはこの花に決めた。むしろ、これしかない。その花言葉。『いつまでも変わらない』。
——ここでひと呼吸。花の紹介は終了。数秒、間が空く。お互いを探り合うように。
静寂を打ち破ったのはベアトリス。ある意味で一番気になっていたところ。
「音楽は? なんの曲をイメージした?」
この弟子はアレンジメントを作る際に『クラシック曲をイメージして』アレンジする。自身で編み出したらしい、納得のいく作風だそう。となると、この花にも当然、なにかあるのだろう。
「となると、メインとなる花は三つ。バーベナ、ホトトギス、キノブラン。全て白で統一しました」
二五〇の野生種を持つマスフラワーであるバーベナ。その花言葉は——。
「『魔力』。これは私のことか?」
褒められているのか、恐れられているのか。不可思議な表情でジロリと相手を見つめるベアトリス。まさか弟のことではないだろう。
一瞬ドキッとするベルだが、それも予想済み。否定してもバレるので、あっさりと認める。冷や汗が背中に流れつつ。
「はい。『尊敬』や『憧れ』のような花言葉よりも、自分にとってのベアトリスさんの像は、どこか遠くにある存在で。こちらのほうが正しいかと」
あとでなにかしらの方法で制裁を受けるだろう。魔女裁判。覚悟の上。
そのままバーベナを、お喋りな口にねじ込んでやろうかと考えたベアトリスだったが、ぐっと堪えて冷めた紅茶を飲む。
「で? ホトトギスは? どうせシャルルだろう」
あからさまに機嫌が悪くなる。それもそのはず。
日本固有種であるホトトギス。白地に紫の斑点のあるフォームフラワー。花言葉は——。
「……『永遠にあなたのもの』……」
言っていてシャルルは自分で恥ずかしい。赤くなった顔をそらす。今後、この花を使うときにはいつまでも思い出すだろう。
さらに眉間に皺がよったベアトリス。声に怒気がこもる。
「キノブラン。さっさと言え」
全部この先の考えを言ってやろうか迷ったが、足を組んで耐え忍ぶ。膝をトントンと指で叩いて催促まで。
スターチスキノブラン。大きく白い花のような部分が実は『ガク』であり、内部の黄色い部分が『花』という、少し変わったラインフラワー。
「フェイクのようなところが自分らしいなって。まだフローリストになりきれていない」
それが自分にピッタリだ、とベルはこの花に決めた。むしろ、これしかない。その花言葉。『いつまでも変わらない』。
——ここでひと呼吸。花の紹介は終了。数秒、間が空く。お互いを探り合うように。
静寂を打ち破ったのはベアトリス。ある意味で一番気になっていたところ。
「音楽は? なんの曲をイメージした?」
この弟子はアレンジメントを作る際に『クラシック曲をイメージして』アレンジする。自身で編み出したらしい、納得のいく作風だそう。となると、この花にも当然、なにかあるのだろう。
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