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トランクイロ
189話
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それを手にしたベルは、表から裏からまじまじと観察。
「なんだろうこれ。輝いているみたい」
常緑性のある葉は、白い斑を無数に帯びている。それはまるで——。
「ハランには何種類か存在しますが、その中でも『星月夜』と呼ばれる、まるで夜空の星々のように葉に斑模様が入ったものになります。他には葉先の白い『旭』や、中心に真っ直ぐ斑が入る『一文字』などもあります」
星を散りばめたような柄。別名『天の川』とも呼ばれる小型の品種。それを使ってひと工夫。
中心ある葉脈がほどよく固いため、ピンと張った状態の観葉植物。それをどう使うのか、ベルにはさっぱりとわからない。
「これをどうするの?」
そこでシャルルが取り出したものはハサミ。その刃を中心付近から縦へ。
「この大きな葉の真ん中にある硬い部分、中央脈を取り除き、二つに分けます。これを二枚ぶんで合計四枚に。それらを重ねます」
柔らかくなった葉を四枚全てまとめる。
まだ全く先が読めないベルは、顎に指を置いて凝視。
「ほう、それでそれで?」
そして再度ハサミを持ち出したシャルルは、端を揃えて今度は横に刃を入れる。もう片方の端も同様に。するとひとつの長方形のような形にハランが変化。
「さらに水を含ませた保水ペーパーを中央に敷いて、そのまま丸めてワイヤー入りリボンで留めると、完成です」
渦を巻いた円状のハランが完成する。型崩れもせず、円柱型で直立。手のひらに乗るサイズ。
それにはベルも歓声をあげる。
「可愛い! 渦の中心のここに花を挿せば——」
「ちょっとオシャレな花留めになります。持ち運びもできますね」
保水ペーパーのおかげでしばらくは保つ。あまりこういった技法を使うことはないのだが、シャルルは覚えておいて損はない、と記憶に置いておいたもの。今、役に立つ。
「それいただき。じゃあ、あとは花器と花か……」
もう一度、店内を見回す。ヒント。なにか。あるはず。
人がひとつ上の段階に行こうとしているような、ステップアップする瞬間を目の当たりにしているような。それがシャルルには嬉しくもあり、少し寂しいような。置いていかれる、そう感じたのかもしれない。
「……少し外しますね」
聞こえているかもわからないが、ひとりにしてみよう。静かな中、音を立てても申し訳ない気がして、今日は紅茶の気分。
だが、集中しているベルにはどんな雑音もシャットアウトされていた。最近見つけた感覚。花とピアノ。選択肢をピックアップ。
「ソノラ……ベアトリスさん……シャルルくん……そして私……うん……!」
決意。自分と向き合った時。フローリストとしての自分を構成するもの。先ほどまで半透明で透けていた自分が、今度こそ実体を伴う。そこから溢れ出る音楽。空中の鍵盤に指を置く。
「なんだろうこれ。輝いているみたい」
常緑性のある葉は、白い斑を無数に帯びている。それはまるで——。
「ハランには何種類か存在しますが、その中でも『星月夜』と呼ばれる、まるで夜空の星々のように葉に斑模様が入ったものになります。他には葉先の白い『旭』や、中心に真っ直ぐ斑が入る『一文字』などもあります」
星を散りばめたような柄。別名『天の川』とも呼ばれる小型の品種。それを使ってひと工夫。
中心ある葉脈がほどよく固いため、ピンと張った状態の観葉植物。それをどう使うのか、ベルにはさっぱりとわからない。
「これをどうするの?」
そこでシャルルが取り出したものはハサミ。その刃を中心付近から縦へ。
「この大きな葉の真ん中にある硬い部分、中央脈を取り除き、二つに分けます。これを二枚ぶんで合計四枚に。それらを重ねます」
柔らかくなった葉を四枚全てまとめる。
まだ全く先が読めないベルは、顎に指を置いて凝視。
「ほう、それでそれで?」
そして再度ハサミを持ち出したシャルルは、端を揃えて今度は横に刃を入れる。もう片方の端も同様に。するとひとつの長方形のような形にハランが変化。
「さらに水を含ませた保水ペーパーを中央に敷いて、そのまま丸めてワイヤー入りリボンで留めると、完成です」
渦を巻いた円状のハランが完成する。型崩れもせず、円柱型で直立。手のひらに乗るサイズ。
それにはベルも歓声をあげる。
「可愛い! 渦の中心のここに花を挿せば——」
「ちょっとオシャレな花留めになります。持ち運びもできますね」
保水ペーパーのおかげでしばらくは保つ。あまりこういった技法を使うことはないのだが、シャルルは覚えておいて損はない、と記憶に置いておいたもの。今、役に立つ。
「それいただき。じゃあ、あとは花器と花か……」
もう一度、店内を見回す。ヒント。なにか。あるはず。
人がひとつ上の段階に行こうとしているような、ステップアップする瞬間を目の当たりにしているような。それがシャルルには嬉しくもあり、少し寂しいような。置いていかれる、そう感じたのかもしれない。
「……少し外しますね」
聞こえているかもわからないが、ひとりにしてみよう。静かな中、音を立てても申し訳ない気がして、今日は紅茶の気分。
だが、集中しているベルにはどんな雑音もシャットアウトされていた。最近見つけた感覚。花とピアノ。選択肢をピックアップ。
「ソノラ……ベアトリスさん……シャルルくん……そして私……うん……!」
決意。自分と向き合った時。フローリストとしての自分を構成するもの。先ほどまで半透明で透けていた自分が、今度こそ実体を伴う。そこから溢れ出る音楽。空中の鍵盤に指を置く。
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