Sonora 【ソノラ】

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トランクイロ

187話

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「それにしても、すごい数のアレンジメント……」

 時間をたっぷりと使って、それもひとりでじっくりと見たことは、実は今までなかった。様々な花器にアレンジメンントにと、今はそれらを参考にアイディアの糸口を掴もうとする。

 当然ながら知らない花も多い。色も形も好みだが、名前のわからない花。あとで聞いてみよう。どういう想いがこもっているのか、とかも。

(自分自身……私というものを見つめ直した時、どんなことを思うのだろう)

 試しに、先ほどまでベアトリスが座っていたイスに座ってみる。目の前には透明な私。この人をアレンジメントで。これまでの生き方。好きなもの、嫌いなもの。趣味、特技。もしこの人を宇宙空間に放り込んだら、最初になんて言うのだろう? 考えるのだろう?

「綺麗……って星とか見て言うのかな。それとも地球?」

 その時の表情。少し不安そうで。でもどこか受け入れていて。学校、サボったことになるのかな? とか。新作のショコラ、化粧品。最近気になる、ドイツ人のカッコいい女性モデル。名前なんだっけ。

「たぶん……どうでもいいことを考えるんだろうな……」

 じわりじわりと、目の前に座る人物の色が濃くなってくる。困り顔で。フワフワとした柔らかそうな髪で。まだ声変わりのしていない少し高い声で、眼鏡がトレードマークで……ん?

「……なにしてるんですか、ベル先輩」

 冷めた目つきの少年がそこにいる。店主の弟。普通に入って普通にイスに座ってみたが、全く気づかれなかった。

 本来なら飛びつきたくなる衝動を抑えるのに精一杯だが、なぜか今はそれよりも集中しなければいけないことがある気がして、ベルはあっさりと挨拶を済ませる。

「あ、シャルルくん。帰ってきてたんだ」

 そしてもう一度、想像の海へ航海に出る。

「僕の家でもありますから。でも、なんか懐かしく感じますね、今の」

 シャルルも同じ方向を見据える。その先にはブリキのジョウロに入ったアレンジメント。自分が作った。

 その発言に含みを感じたベルは、その横顔に目線を移す。

「? なにが?」

 懐かしい、ってなんだっけ? と思考を切り替えて思い出そうとするが、やはりなにも出てこない。

 逆に、シャルルのほうは鮮明に覚えている。信号で立ち止まる少女。とても弱々しい印象を受けて。

「初めてお会いした時も、そうやってボーッとしてたじゃないですか。あの時はなにを見ていたんですか?」

 朧げながら思い出したベル。そういえば、とフラッシュバック。

「あの時が初めて……」
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