Sonora 【ソノラ】

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トランクイロ

183話

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 翌日。

 誰かに聞くのはよそう。朝起きたベルはそうひとり決心した。誰かと比べること、誰かのあとを追うこと。意味はない。歩幅も違えば体力も違う。靴擦れを起こしてしばらく休むくらいなら、一歩一歩自分のペースで。答えが出ないならそれでいい。

「とはいっても、頭の片隅で考えちゃうんだよねぇ……」

 駅のホーム。通学路の石畳。散歩する犬。フローリストに大切なこと。大切なこと。大切な……こと。

「なんだ? ギブアップか?」

 放課後、今日は勤務の予定はなかったのだが、自然とベルの足は〈Sonora〉に向かった。そしてベアトリスはニヤニヤと、悪どい笑みを浮かべる。他人の困った顔。大好きだ。

 クラっと貧血で倒れそうになるのをこらえるベル。この人にだけは頼りたくなかったが、なんだかんだと行き着くのはこの悪い魔女。『負けたくない』という気持ちと『一生勝てない』という気持ちが入り乱れるこの。

「……いや、今日はお客さんとして来てみました……」

 こうすれば、ただの依頼人としてアドバイスをもらえる。普通に聞き出すのはなんだか違うような気がして。

 小さく「なるほど」とベアトリスは納得しつつも、顔を近づけて非情な宣告。

「予約制なんでな。お断りだ」

 出直して来い、と振り返って仕事もとい趣味のアレンジメントに戻る。

 しかし簡単には引き下がらないベル。痛いところを突いていく。

「いや、この時間お客さんいませんでしたよね? 飛び入りでも、時間があればやってるはずです」

 初めてこの店に来た時もそう。たまたま空いていたから。突然禁止になる、なんてことはないはず。

 ふぅ、と諦めにも似たため息を漏らしたベアトリスは、また新たなルールを打ち立てる。

「追加料金だ。三割増しになるがいいのか?」

 悪いことが次々に思い浮かぶ。今日は調子がいいぞ。

 だがそれも丁重にベルは拒否。

「そんなシステムありません。普通料金でお願いします」

 一瞬でも弱気を見せると付け込んでくる。なので強気で跳ね返すしかない。

 店の中央にあるイスに座り、ベアトリスはテーブルに置いてあったコーヒーに口をつける。

「で? どんな用件だ? 聞くだけは聞いてやる」

 いじめるのにも飽きてきたので、さっさと本題に。なんとなく予想はついているが。

 その対面のイスに手をかけるベルだが、座ろうとして躊躇する。やっぱりもう少し悩んでみようか。それとも悩んでいる時間も勿体無いなら、相談して次のステップへ行くべきか。しばし沈黙し。

「……フローリスト、その本質って、なんなのかなって」

「知らん」

「はい?」

 間髪入れずにベアトリスから有難いアドバイスをいただき、ベルは声を裏返しながら返事。今、なんて?
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