Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
172 / 235
ブリランテ

172話

しおりを挟む
「てことは、この花言葉とかが、そういうことになるのかな」

 指先でオードは軽く触れてみる。ドライフラワーゆえに、カリっとした手触り。カルトナージュが少し派手なこともあってか、控えめな魅力のある花とでバランスがいい、気がする。

「イタリアンルスカス、このグリーン花の花言葉は『陽気』。キリゲリ、って言葉あるじゃない? 笑う人には幸福が訪れるって。それをこれは表現しているの」

 フランスでは、病気になった時や辛い時などに「笑えば治る」という意味で、この言葉を使う。笑う事そのものに力があると考えられており、困ったらとりあえず言う、くらいにフランクに使われている。

 ベルが続ける。

「そしてハイブリッドスターチス。意味は『お茶目』。ボンボニエールには様々な形、素材、装飾がある。だからこそ、たまには遊び心を取り入れてもいいのかな、って」

 小さな花が枝分かれして咲き誇るハイブリッドスターチス。こちらもメインに対するアシスト役ではあるが、それだけでは終わらない控えめな主張。目を奪われる。

 そして最後。メインとなる紫の多年草。

「ラナンキュラス・ピュイド。花言葉は……『幸福』。そのままだね。あえて捻らないほうがいいと思って」

 薄い紙のように何層にも重なった花びらが、光と温度に反応し、開いていく。少しずつ、だが確実に。きっと、願いは叶う。

 ラナンキュラス、ハイブリッドスターチス、イタリアンルスカス、そしてマツカサ。それらは普通に咲いているだけでは、ひとつになることはない。だが、フローリストを介することによって、こうやって出会うこともある。その組み合わせが、その人に音を届ける。

「……面白いよ。うん、面白い!」

 顔を花に近づけてオードは香りを楽しむ。花器として持ち込んだカルトナージュは、今、香りと音を纏っている。自分の作品が、より色づいていく。

 まず、オードが喜んでくれたことに、ベルはほっとひと息。精一杯ではあったが、それはビジネスという点から見れば、意味をなさない。頑張りよりも結果。ピアノでもそうだ。ひとまず、期待に添うことはできたのかもしれない。

「……よかった……疲れた……」

 ただ選んで挿しただけなので、体の疲れというよりは頭の疲れ。だが、カロリーは相当消費したかもしれない。重力が増えたように感じ、その場にしゃがみ込む。

「大丈夫? でも、すごくいいと思うよ。あたしは花については素人だから、よくわかんないけど……そんなたくさん意味を詰め込んでくれてたんだ、って嬉しいし」

 ただ『綺麗』『可愛い』という感想だけではオードは終わらない。じんわりと浸透してくる花の声。なにか嫌なことがあっても、少しだけ頑張れそう。このアレンジメントを、携帯で写真に収める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

処理中です...