Sonora 【ソノラ】

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ブリランテ

167話

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 唐突に体を動かし出したベルに、オードの表情が表現するものは怪訝。

「……どうしたの? ピアノ? ピアノやるの?」

 花屋は? 勝手に楽しみだした留守番係の動きを、しばらく見つめてみる。この中にヒントがある……ってこと?

 店内に流れるバッハの曲を尻目に、約二分にわたる『猫』を弾き終える。やはりピアノはいい。頭がクリアになる。

 無言で待っていたオードは、区切りがついたことを確認し、問いただしてみる。

「……で、どう? なにか思いついた?」

 一体何の曲を弾いていたのかも、なんで唐突にそんなことをしだしたのかも、さっぱりわからない。会ったばかりだし。この子のこと全然知らないし。だけど、さっきよりも晴々した顔つき。ということは?

「ううん、なにも」

 まぁそうでしょうね。予想通りのベルの返し。清々しくて逆にオードも元気をもらう。

 なんとなく、先ほどとベルの様子が違う気がする。ゆったりと空気を喰み、頭の中で理論を構築する。案が浮かんだわけではないが、そこに至るまでの過程の選択。

「でも……こんな時どうしたらいいのか、たぶんわかる気がする。どういう視野を持つべきなのか、っていうのかな……」

 雰囲気も、慌てふためいていた時とは違い、ゆったりとしたものに。

 オードは一度イスに座り直す。

「……そんな時はどうするの?」

 結論をぜひとも聞いておきたい。迷わず直球で問う。

 少し言いづらそうに躊躇うが、ベルは決意を固めた。

「……真逆のことを考えてみるといいかも。私も、ピアノで詰まった時は、あえて音楽記号とは逆の弾き方がしっくりくることもあるし」

 ようやく思い出した。案、というのとは違うが、うまく物事が運ぶ時の一連の流れ。凝り固まった見方を一度、排除する。風通しをよくする。

 だが、『逆』と言われても、なかなかオードにはピンとこない。カルトナージュとは箱。箱の逆とは? むしろ、カルトナージュ自身が包まれる、ということ?

「逆、ねぇ。なんかこう、例みたいなものってある? ふんわりしすぎてて、なんにも引っかかってこないんだけど」

 花器の逆。箱の逆。カルトナージュの逆。空の逆が大地、のように明確な基準がない。

 はっきりとした答えが出せていないのはベルも一緒。そんななか、ひとつ挙げてみる。言うだけはタダだし。

「カルトナージュの中に花を入れる、んじゃなくて、カルトナージュを外したら花が生まれる、ってのはどう?」

 あれ? なに言ってるんだ自分? 花が生まれる? 考えなしに口が動いたが、つまりどういうことか、と聞かれてもわからない。でも、逆といえば逆でしょ?
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