167 / 232
ブリランテ
167話
しおりを挟む
唐突に体を動かし出したベルに、オードの表情が表現するものは怪訝。
「……どうしたの? ピアノ? ピアノやるの?」
花屋は? 勝手に楽しみだした留守番係の動きを、しばらく見つめてみる。この中にヒントがある……ってこと?
店内に流れるバッハの曲を尻目に、約二分にわたる『猫』を弾き終える。やはりピアノはいい。頭がクリアになる。
無言で待っていたオードは、区切りがついたことを確認し、問いただしてみる。
「……で、どう? なにか思いついた?」
一体何の曲を弾いていたのかも、なんで唐突にそんなことをしだしたのかも、さっぱりわからない。会ったばかりだし。この子のこと全然知らないし。だけど、さっきよりも晴々した顔つき。ということは?
「ううん、なにも」
まぁそうでしょうね。予想通りのベルの返し。清々しくて逆にオードも元気をもらう。
なんとなく、先ほどとベルの様子が違う気がする。ゆったりと空気を喰み、頭の中で理論を構築する。案が浮かんだわけではないが、そこに至るまでの過程の選択。
「でも……こんな時どうしたらいいのか、たぶんわかる気がする。どういう視野を持つべきなのか、っていうのかな……」
雰囲気も、慌てふためいていた時とは違い、ゆったりとしたものに。
オードは一度イスに座り直す。
「……そんな時はどうするの?」
結論をぜひとも聞いておきたい。迷わず直球で問う。
少し言いづらそうに躊躇うが、ベルは決意を固めた。
「……真逆のことを考えてみるといいかも。私も、ピアノで詰まった時は、あえて音楽記号とは逆の弾き方がしっくりくることもあるし」
ようやく思い出した。案、というのとは違うが、うまく物事が運ぶ時の一連の流れ。凝り固まった見方を一度、排除する。風通しをよくする。
だが、『逆』と言われても、なかなかオードにはピンとこない。カルトナージュとは箱。箱の逆とは? むしろ、カルトナージュ自身が包まれる、ということ?
「逆、ねぇ。なんかこう、例みたいなものってある? ふんわりしすぎてて、なんにも引っかかってこないんだけど」
花器の逆。箱の逆。カルトナージュの逆。空の逆が大地、のように明確な基準がない。
はっきりとした答えが出せていないのはベルも一緒。そんななか、ひとつ挙げてみる。言うだけはタダだし。
「カルトナージュの中に花を入れる、んじゃなくて、カルトナージュを外したら花が生まれる、ってのはどう?」
あれ? なに言ってるんだ自分? 花が生まれる? 考えなしに口が動いたが、つまりどういうことか、と聞かれてもわからない。でも、逆といえば逆でしょ?
「……どうしたの? ピアノ? ピアノやるの?」
花屋は? 勝手に楽しみだした留守番係の動きを、しばらく見つめてみる。この中にヒントがある……ってこと?
店内に流れるバッハの曲を尻目に、約二分にわたる『猫』を弾き終える。やはりピアノはいい。頭がクリアになる。
無言で待っていたオードは、区切りがついたことを確認し、問いただしてみる。
「……で、どう? なにか思いついた?」
一体何の曲を弾いていたのかも、なんで唐突にそんなことをしだしたのかも、さっぱりわからない。会ったばかりだし。この子のこと全然知らないし。だけど、さっきよりも晴々した顔つき。ということは?
「ううん、なにも」
まぁそうでしょうね。予想通りのベルの返し。清々しくて逆にオードも元気をもらう。
なんとなく、先ほどとベルの様子が違う気がする。ゆったりと空気を喰み、頭の中で理論を構築する。案が浮かんだわけではないが、そこに至るまでの過程の選択。
「でも……こんな時どうしたらいいのか、たぶんわかる気がする。どういう視野を持つべきなのか、っていうのかな……」
雰囲気も、慌てふためいていた時とは違い、ゆったりとしたものに。
オードは一度イスに座り直す。
「……そんな時はどうするの?」
結論をぜひとも聞いておきたい。迷わず直球で問う。
少し言いづらそうに躊躇うが、ベルは決意を固めた。
「……真逆のことを考えてみるといいかも。私も、ピアノで詰まった時は、あえて音楽記号とは逆の弾き方がしっくりくることもあるし」
ようやく思い出した。案、というのとは違うが、うまく物事が運ぶ時の一連の流れ。凝り固まった見方を一度、排除する。風通しをよくする。
だが、『逆』と言われても、なかなかオードにはピンとこない。カルトナージュとは箱。箱の逆とは? むしろ、カルトナージュ自身が包まれる、ということ?
「逆、ねぇ。なんかこう、例みたいなものってある? ふんわりしすぎてて、なんにも引っかかってこないんだけど」
花器の逆。箱の逆。カルトナージュの逆。空の逆が大地、のように明確な基準がない。
はっきりとした答えが出せていないのはベルも一緒。そんななか、ひとつ挙げてみる。言うだけはタダだし。
「カルトナージュの中に花を入れる、んじゃなくて、カルトナージュを外したら花が生まれる、ってのはどう?」
あれ? なに言ってるんだ自分? 花が生まれる? 考えなしに口が動いたが、つまりどういうことか、と聞かれてもわからない。でも、逆といえば逆でしょ?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる