Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
上 下
164 / 235
ブリランテ

164話

しおりを挟む
 大きなトートバッグを肩に掛けた女性は、その中からひとつ、蓋つきの容器のようなものを取り出した。それをベルに手渡す。

「売り込み。これ、なんだかわかる?」

 一歩だけベルに近づき、あわよくば取り込もうとしている。まずは下の者から。話が通しやすくなるように。

 両手で覆える程度の大きさの正十二面体。表面は黄色い花柄の布地で覆われている。蓋を開けて中を見てみる。中はまた違う生地。言われてベルは、さらに様々な角度から覗き見る。

「……?」

 なんだろう、これは。軽い。まるで紙で出来ているような……紙? ひとつ、可能性が浮かび上がる。

「……もしかして、これ」

 女性の口元が釣り上がる。

「そう、カルトナージュ。てか、ごめん。自己紹介がまだだったね。オード・シュヴァリエ。よろしく。これ、お近づきのしるし」

 お土産まで持参。掌に乗るサイズのサイコロのような立方体。青いドット柄。一面が開いており、ドライフラワー、もしくはセロファンとオアシスがあれば、花器として使える。

 そもそもカルトナージュとは。フランスの伝統となる工芸技術。厚紙に布を貼って箱を作る。ただそれだけなのだが、無限にも思えるほどの様々な形があり、布があり、用途がある。芸術と呼べるほどに昇華されたそれは、海外からの旅行客のお土産としても人気のあるものだ。

「あ、ありがとう……ございます……」

 グイグイとくるオードに、ベルは後退しつつもお礼を述べる。だが、こういう花器もたしかにいい、と視線をカルトナージュに集中させる。

 サクッと場を仕切り、オードは話を進めていく。それと、気になること。
 
「同じ年くらい? いいよ、そんな畏まらなくて。てか、あたしがもっと畏まらなきゃだったかな。なんせお願いに来てるわけだから」

 同年代の子に対する近づき方がわからない。なんせ胸を張って友人と呼べる存在がいない。いないこともないが、ほぼいないようなもの。明るく振る舞うが、内心ではハラハラしている。距離感はこれで正しいの?

 まだ完全に警戒を解けないベルではあるが、悪い人ではなさそう、という結論に落ち着く。売り込みなんてあるのか、と驚きつつも、少しずつ打ち解けていこうと決めた。

「そう、かな? あたしはベル・グランヴァル。本当はここで働いているわけじゃなくて……今日は店の留守番を頼まれてて……だからなんとも言えないや……ごめん」

 たぶん勇気を出してお店に来てくれた、のだと思うが、思う通りの解答が出せず、申し訳なく思う。袖口をギュッと握り、耐える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

みちのく銀山温泉

沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました! 2019年7月11日、書籍化されました。

ローランの歌

N2
歴史・時代
フランス最古の武勲詩『ローランの歌』の編訳です。 中世フランク王国の勇将ローラン辺境伯の活躍と悲劇を描いた物語で、11~12世紀ごろの成立いらい、ヨーロッパの文学に多大な影響を与えたとされる記念碑的叙事詩です。 本邦での受容の歴史は古く、戦前から60年代にかけて、いくつかの翻訳がなされています。 しかし岩波、ちくま文庫の訳書は現在絶版状態にあり、書店で気軽に手に入らなくなってしまいました。 また、旧訳の文体は格調高いながらも時代を感じさせる箇所も見受けられます。 そこであらためて英書テクストから新訳し、ある程度読みやすいかたちに現代化をこころみました。 ただし、原書は850年ほど前の韻文であり、また登場人物たちはキリスト教化して三世紀と経たぬゲルマンの騎士であることも事実です。そのため文語的な言いまわしを敢えて残して訳してあります。

フォギーシティ

淺木 朝咲
キャラ文芸
どの地図にも載らず、常に霧に覆われた街、通称フォギーシティは世界中のどの街よりも変わっていた。人間と"明らかにそうでないもの"──すなわち怪物がひとつの街で生活していたのだから。 毎週土曜日13:30に更新してます

神様、愛する理由が愛されたいからではだめでしょうか

ゆうひゆかり
キャラ文芸
【不定期投稿です】 退役軍人のラファエル・オスガニフは行きつけのバーで酒を浴びるほど飲んだ帰り、家路の路地裏で子どもがひとりでうずくまっているのをみつけた。 子どもの年の頃は四、五歳。 鳥の巣のような頭にボロボロの服から垣間見える浮き出た骨。 おそらくは土埃で黒くなった顔。 男児とも女児ともつかない哀れな風貌と傍らに親らしき人物がいないという事実に、ラファエルはその子は戦争孤児ではないかという疑念を抱くものの。 戦渦にみまわれ荒れ果てている我が国・アルデルフィアには戦争孤児は何処にでもいる。 だから憐んではいけないと頭ではわかっていたが、その子の顔は二十年前に死に別れた妹に似ていて--。 これは酒浸りおっさんと戦争孤児が織りなす子育てとカウンセリングの記録。 《ガイドライン》 ⚪︎無印…ラファエル視点 ⚪︎※印…ジェニファー視点 ⚪︎◇印…ミシェル視点 ⚪︎☆印…ステニィ視点  

IO-イオ-

ミズイロアシ
キャラ文芸
◆あらすじ ロゼとマキナは、エリオ、ダグラス、ポールと共に娯楽施設へ向かう途中、道端で子どもらにいじめられるロボットを助ける。そのロボットは名を「イオ」と言い、彼らに礼を言うと、その場で別れた。皆がゲームに夢中になる中、ダグラスは彼が気になるようで、ホーボットの話題を持ち出す。所有者のいないロボット通称ホーボットは、いわゆる社会現象だ。世間ではある噂が広がっていた。 ◆キャッチコピーは「感情解放ーー想いを爆発させろ」

白鬼

藤田 秋
キャラ文芸
 ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。  普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?  田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!  草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。  少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。  二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。  コメディとシリアスの温度差にご注意を。  他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十
キャラ文芸
もう収集つかないくらいにとっ散らかってしまって試行錯誤を続けて、ひたすら迷走したまま終わることになりました。その分、「マイルドバージョン」の方でなんとかまとめたいと思います。 なお、こちらのバージョンは、出だしと最新話とではまったく方向性が違ってしまっている上に<ネタバレ>はおおよそ関係ない構成になっていますので、まずは最新話を読んでから合う合わないを判断されることをお勧めします。     なろうとカクヨムにも掲載しています。

処理中です...