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ブリランテ
163話
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「え、え、え? 白? 白だと、今は、オススメは——」
と、店内を見回す。ノエルが近いだけあって、白い花は多い。レンガ調の壁に掛けてある白い花。な、なんだっけ……? 普段ならすぐに出てくるはずなのに、見覚えのあるはずの花の名前が出てこない。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいね……」
他、他に花! 白、白いのがいっぱい! あれ、あれなんだっけ、〈ソノラ〉でも見かけて、いいなぁとか思ったはず! なんだっけ、なんだっけ……!
名店の名前を穢してはいけない、と必死に落ち着こうとするが、余計出てこない。とすると、どうすればいい。と、悩んだところで、言われたことを思い出す。
「そ、そうだ、名前を聞いておけばなんとか……!」
名前を聞いておいてくれれば、あとで掛け直す。そう言われていた。瞬時に思い出した、私、やればできる!
「お、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」
言えた。これで、名前をメモっておけば、あとはなんとか……! 企業とか会社とかばっかりだっていうし、なんとかなる……!
すると、電話の向こうの人物が、静かに口を開いた。
《ベアトリス・ブーケ。場所は八区》
「はい、ベアトリス・ブーケさん、八区ですね……ん?」
どこかで聞いた名前。そして区。んん??
《なにやっているんだ? お前》
落ち着いて聞いてみると、なんだか知っている声。よく罵倒される系の。
《それじゃあな》
それだけ言い残し、電話の主は切った。特に注文とかではないらしい。
あたりに静けさが戻る。外の喧騒がよりお店に入ってくるようで、先ほどよりも大きく聴こえる。電球の明るさが眩しい。
……とりあえず難は逃れた。そして放心状態のまま、その場にベルは崩れ落ちる。
「……あの人は……!」
おそらく、私の焦る姿を想像したかっただけだ、と予想した。そのためだけに電話。高確率であり得る。
「……はぁぁぁぁ……」
体全体を使って呼吸する。全身に酸素を送る。落ち着いてくると、いや、自分の責任だ、という考えが巡ってきた。引き受けたからには、しっかりとできることを全うし——
「あのー、こんにちはー」
「はぃぃぃぃッ!」
今度は電話ではなく、ドアを開いて来店したお客さんに声をかけられた。若い女性だ。集中が受話器に向いていたので、違う方向からの力に弱い。またも、大きな声でさけんでしまう。
「……大丈夫? オーナーさんいる? 話があるんだけど」
怯えるベルの顔色を伺いながら、女性は店内をキョロキョロと見回す。見える範囲には、あのリオネル・ブーケはいない。なら、聞くほうが手っ取り早い。
「いえ……今は外してまして……どういったご用件、になりますか?」
落ち着いてベルが観察してみると、同じ年くらいの女の子。怖そうな男性、とかだったらまだまともに喋れないかもしれないが、緊張は軽減されてきた。少しつっかえながらも、それっぽく対応する。
と、店内を見回す。ノエルが近いだけあって、白い花は多い。レンガ調の壁に掛けてある白い花。な、なんだっけ……? 普段ならすぐに出てくるはずなのに、見覚えのあるはずの花の名前が出てこない。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいね……」
他、他に花! 白、白いのがいっぱい! あれ、あれなんだっけ、〈ソノラ〉でも見かけて、いいなぁとか思ったはず! なんだっけ、なんだっけ……!
名店の名前を穢してはいけない、と必死に落ち着こうとするが、余計出てこない。とすると、どうすればいい。と、悩んだところで、言われたことを思い出す。
「そ、そうだ、名前を聞いておけばなんとか……!」
名前を聞いておいてくれれば、あとで掛け直す。そう言われていた。瞬時に思い出した、私、やればできる!
「お、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」
言えた。これで、名前をメモっておけば、あとはなんとか……! 企業とか会社とかばっかりだっていうし、なんとかなる……!
すると、電話の向こうの人物が、静かに口を開いた。
《ベアトリス・ブーケ。場所は八区》
「はい、ベアトリス・ブーケさん、八区ですね……ん?」
どこかで聞いた名前。そして区。んん??
《なにやっているんだ? お前》
落ち着いて聞いてみると、なんだか知っている声。よく罵倒される系の。
《それじゃあな》
それだけ言い残し、電話の主は切った。特に注文とかではないらしい。
あたりに静けさが戻る。外の喧騒がよりお店に入ってくるようで、先ほどよりも大きく聴こえる。電球の明るさが眩しい。
……とりあえず難は逃れた。そして放心状態のまま、その場にベルは崩れ落ちる。
「……あの人は……!」
おそらく、私の焦る姿を想像したかっただけだ、と予想した。そのためだけに電話。高確率であり得る。
「……はぁぁぁぁ……」
体全体を使って呼吸する。全身に酸素を送る。落ち着いてくると、いや、自分の責任だ、という考えが巡ってきた。引き受けたからには、しっかりとできることを全うし——
「あのー、こんにちはー」
「はぃぃぃぃッ!」
今度は電話ではなく、ドアを開いて来店したお客さんに声をかけられた。若い女性だ。集中が受話器に向いていたので、違う方向からの力に弱い。またも、大きな声でさけんでしまう。
「……大丈夫? オーナーさんいる? 話があるんだけど」
怯えるベルの顔色を伺いながら、女性は店内をキョロキョロと見回す。見える範囲には、あのリオネル・ブーケはいない。なら、聞くほうが手っ取り早い。
「いえ……今は外してまして……どういったご用件、になりますか?」
落ち着いてベルが観察してみると、同じ年くらいの女の子。怖そうな男性、とかだったらまだまともに喋れないかもしれないが、緊張は軽減されてきた。少しつっかえながらも、それっぽく対応する。
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