Sonora 【ソノラ】

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スピリトーゾ

147話

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「あと、ティーカップがどっかにいってしまったので、新しいのを買おうと思ってます。まだ新品だったのに、どっかいってしまって。北欧ブランドものだったんですけど……」

 悲しげにシャルルは声をトーンダウンさせる。カップといったものも売っているが、その他、燭台など花器とは一見無関係のようなものもある。花だけのための資材コーナーではないため、インテリアのようなものもかなりある。

「ドライフラワーも資材、っていうカテゴリなんだ……」

 その中でベルは、アジサイやミナヅキなどのドライフラワーを手に取る。使ったことはないが、この穏やかな色合いと、独特な安らぎ感が心地いい。カフェで、レジなどに無造作にドライフラワーが置かれていることも、パリではよくある。それがなんとなくオシャレだったりするのだ。

 資材として売っているイスに腰掛けたレティシアは、座り心地を確かめる。少し歩き疲れたのもあるが、落ち着いたところでひとつ閃く。

「せっかくだから、私たちが選んだ花器に合うアレンジメントを、この後作ってくれないかしら」

 と、シャルルを捕まえて提案。ただの戯れ。とくに理由もないが、せっかくこれだけあるのだから、どんなものを花で表現するのか、気になる。生花もたくさん売っているし。

 自身を指差したシャルルは、その言葉の意味をゆっくり消化する。

「僕が、ですか?」

「せっかくお金もいただいたことだし。これだけあればなにかしら、面白いものもあるでしょう」

 遊びではあるが、特にテーマもない時、どんなアレンジメントをするのか。お手並み拝見とすることにした。

 たしかに、とベルも乗り気になる。

「私も見てみたいかも」

 自分も店では練習で作らせてもらってはいるが、シャルルやベアトリスのようにはいかない。どうすればいいのか、参考にしなければ。

 悪戯な笑みでレティシアはシャルルを惑わせる。この子の色んな表情を見てみたい。

「面白いでしょ?」

「いや、今日は買い物だけで——」

「じゃあこれで!」

 と、シャルルが否定するより先に、シルヴィは花器を持ちよる。だが、それは花器というにはあまりにも異質。まるで電車のような、というより輪軸もあるため、モチーフは電車だろう。上の部分と窓が開けている。花が挿せればなんでも花器と言えるのであれば、一応は言えなくもない。

 手に取り、まじまじと観察するシャルル。掌に収まる小さなサイズ。なぜこんなものが。

「いや、どこに売ってたんですかこれ」

 今までに色々な花器を使ったことはあるが、電車は初めて。いや、ほとんどのフローリストは出会うことなく生涯を終えるだろう。
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