143 / 232
スピリトーゾ
143話
しおりを挟む
「そうだぞ。遠慮するのは失礼だぞ」
ベルに注意するシルヴィ。ならば、と代わりに受け取ろうとするが、レティシアに阻まれる。
「あなたはアレンジのひとつでも作ってから、そういうのは言いなさい」
とりあえずベルが無事受け取ったところで、リオネルは本来の目的に戻す。
「シャルルもみんなで買い物に行っといで。こっちは気にしなくていい。適当に買っておくから」
買うもの自体は少ない。ひとりでもできると判断し、いつも姉に振り回されて大変であろう、シャルルに羽を伸ばさせる。
当のシャルルは声を荒げて否定する。
「でも今日は——」
「子供が楽しんでるとこ見るのも、親の役目なの」
その低い位置にある頭を撫でながら、リオネルは最後にポンポンと叩いた。
そこからなにか、読み取れた気がするシャルルは、そのまま意思を受け取る。
「……わかりました。行ってきます」
自身が大人びてきているのはわかる。だからこそ、去年ではわからなかったこともわかる。少しの間、リオネルをひとりにさせてあげよう。
ニカっと笑い、子供達をリオネルは送り出す。子沢山になった気分。
「おう。俺はこの辺にいるから、終わったら来い」
その背中を見送る。男ひとりに女三人。うーん、どれを選ぶのだろうか。
「さて」
気を取り直して、生花の道をリオネルは闊歩していく。人々の話し声。値切りの交渉。花に値段がついていないものも生花には多い。金額は販売主との話し合いで決まる。ゆえに、親しい人ほど安く買える。顔を広く売っていると、そのぶんお得だ。
「リオネル! イタリアからいいのが入ったんだ!」
「サロンの花、いい感じだったね。困ったらウチにも相談してくれよ」
「お前に貸した二〇〇ユーロ、まだ返ってきてないぞ」
M.O.Fだけあり、歩くだけで声をかけられる。この場には他にも同じような地位にある人物は、たまに見かける。ここはそんな人物達も普通に買い付けに来ている。花のことだけに集中できる。一部、借金の取り立てもあったけど。
今回目指しているのは、おそらく中でも一番の古い知り合いの男。島中のスペースにいるその人物は、顔を合わせた瞬間、視線を逸らして悪態をつく。
「来たか優男」
腰が曲がり、かなりの高齢であることはわかるが、今も現役で花を売っている。色とりどりの花に囲まれ、身動きが取れないが、よりこの棟の重鎮感が出ている。
歩みを止めたリオネルは、まわりを見渡す。さすが、と小さく呟いた。
「フィリップじいさんも相変わらず口が悪いな。が、花は最高だ」
仕入れ先リストの一番上。ここでまず選んでから、足りない花を選ぶことも多い。だが今日は決まっている。去年も。そしてこれからも。一年で一度だけは。
ベルに注意するシルヴィ。ならば、と代わりに受け取ろうとするが、レティシアに阻まれる。
「あなたはアレンジのひとつでも作ってから、そういうのは言いなさい」
とりあえずベルが無事受け取ったところで、リオネルは本来の目的に戻す。
「シャルルもみんなで買い物に行っといで。こっちは気にしなくていい。適当に買っておくから」
買うもの自体は少ない。ひとりでもできると判断し、いつも姉に振り回されて大変であろう、シャルルに羽を伸ばさせる。
当のシャルルは声を荒げて否定する。
「でも今日は——」
「子供が楽しんでるとこ見るのも、親の役目なの」
その低い位置にある頭を撫でながら、リオネルは最後にポンポンと叩いた。
そこからなにか、読み取れた気がするシャルルは、そのまま意思を受け取る。
「……わかりました。行ってきます」
自身が大人びてきているのはわかる。だからこそ、去年ではわからなかったこともわかる。少しの間、リオネルをひとりにさせてあげよう。
ニカっと笑い、子供達をリオネルは送り出す。子沢山になった気分。
「おう。俺はこの辺にいるから、終わったら来い」
その背中を見送る。男ひとりに女三人。うーん、どれを選ぶのだろうか。
「さて」
気を取り直して、生花の道をリオネルは闊歩していく。人々の話し声。値切りの交渉。花に値段がついていないものも生花には多い。金額は販売主との話し合いで決まる。ゆえに、親しい人ほど安く買える。顔を広く売っていると、そのぶんお得だ。
「リオネル! イタリアからいいのが入ったんだ!」
「サロンの花、いい感じだったね。困ったらウチにも相談してくれよ」
「お前に貸した二〇〇ユーロ、まだ返ってきてないぞ」
M.O.Fだけあり、歩くだけで声をかけられる。この場には他にも同じような地位にある人物は、たまに見かける。ここはそんな人物達も普通に買い付けに来ている。花のことだけに集中できる。一部、借金の取り立てもあったけど。
今回目指しているのは、おそらく中でも一番の古い知り合いの男。島中のスペースにいるその人物は、顔を合わせた瞬間、視線を逸らして悪態をつく。
「来たか優男」
腰が曲がり、かなりの高齢であることはわかるが、今も現役で花を売っている。色とりどりの花に囲まれ、身動きが取れないが、よりこの棟の重鎮感が出ている。
歩みを止めたリオネルは、まわりを見渡す。さすが、と小さく呟いた。
「フィリップじいさんも相変わらず口が悪いな。が、花は最高だ」
仕入れ先リストの一番上。ここでまず選んでから、足りない花を選ぶことも多い。だが今日は決まっている。去年も。そしてこれからも。一年で一度だけは。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる