Sonora 【ソノラ】

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スピリトーゾ

143話

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「そうだぞ。遠慮するのは失礼だぞ」

 ベルに注意するシルヴィ。ならば、と代わりに受け取ろうとするが、レティシアに阻まれる。

「あなたはアレンジのひとつでも作ってから、そういうのは言いなさい」

 とりあえずベルが無事受け取ったところで、リオネルは本来の目的に戻す。

「シャルルもみんなで買い物に行っといで。こっちは気にしなくていい。適当に買っておくから」

 買うもの自体は少ない。ひとりでもできると判断し、いつも姉に振り回されて大変であろう、シャルルに羽を伸ばさせる。

 当のシャルルは声を荒げて否定する。

「でも今日は——」

「子供が楽しんでるとこ見るのも、親の役目なの」

 その低い位置にある頭を撫でながら、リオネルは最後にポンポンと叩いた。

 そこからなにか、読み取れた気がするシャルルは、そのまま意思を受け取る。

「……わかりました。行ってきます」

 自身が大人びてきているのはわかる。だからこそ、去年ではわからなかったこともわかる。少しの間、リオネルをひとりにさせてあげよう。

 ニカっと笑い、子供達をリオネルは送り出す。子沢山になった気分。

「おう。俺はこの辺にいるから、終わったら来い」

 その背中を見送る。男ひとりに女三人。うーん、どれを選ぶのだろうか。

「さて」

 気を取り直して、生花の道をリオネルは闊歩していく。人々の話し声。値切りの交渉。花に値段がついていないものも生花には多い。金額は販売主との話し合いで決まる。ゆえに、親しい人ほど安く買える。顔を広く売っていると、そのぶんお得だ。

「リオネル! イタリアからいいのが入ったんだ!」

「サロンの花、いい感じだったね。困ったらウチにも相談してくれよ」

「お前に貸した二〇〇ユーロ、まだ返ってきてないぞ」

 M.O.Fだけあり、歩くだけで声をかけられる。この場には他にも同じような地位にある人物は、たまに見かける。ここはそんな人物達も普通に買い付けに来ている。花のことだけに集中できる。一部、借金の取り立てもあったけど。

 今回目指しているのは、おそらく中でも一番の古い知り合いの男。島中のスペースにいるその人物は、顔を合わせた瞬間、視線を逸らして悪態をつく。

「来たか優男」

 腰が曲がり、かなりの高齢であることはわかるが、今も現役で花を売っている。色とりどりの花に囲まれ、身動きが取れないが、よりこの棟の重鎮感が出ている。

 歩みを止めたリオネルは、まわりを見渡す。さすが、と小さく呟いた。

「フィリップじいさんも相変わらず口が悪いな。が、花は最高だ」

 仕入れ先リストの一番上。ここでまず選んでから、足りない花を選ぶことも多い。だが今日は決まっている。去年も。そしてこれからも。一年で一度だけは。
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