Sonora 【ソノラ】

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スピリトーゾ

142話

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 その空間に存在する人間はみな、花に関わる者達。熱気が伝わってくる。かなり人が集まってきているようで、温度が二、三度上がったような気配をベルは感じた。

「……すごい……広い……」

 色別に分けられた花々。カラフルで、見ているだけで元気が湧いてくる。まるでシベリウスの『花の組曲』のような。様々な顔を覗かせる花達。

 この市場の大きさに感嘆する者、そんなことよりシャルルから離れようとしない者、味を確かめようとする者、様々だが、リオネルは概ね満足。

「全体で二三〇ヘクタール以上もあるからね。一万人以上が働き、生花や植木だけでも一日に一四万束以上。ちなみに精肉のパビリオンは室温三度とかだから、行くなら覚悟しておきなよ」

 豆知識を披露。目を輝かせる若者達を見るのは楽しい。

 本来であれば、リオネルと二人で訪れる予定であったシャルル。なんとなく手持ち無沙汰になる。

「父さん、僕は——」

「メインは花だけど、迷子にならないように、みんなで色んなところ行っておいで。さぁ、バイヤーカードとおこづかいをあげよう」

 と、上機嫌のリオネルは、ベルに多少のユーロ札とカードを渡す。バイヤーカードがないと購入ができないため、買い物には必須となる。この中で一番まともそうな子に託した。自分はなくても顔パスでいけるだろう。

 ちなみに買い物をすると、売り手は必ず領収書を書かなくてはならない。そのためにバイヤーカードが必要なのだ。だが、そのあたりも適当な人がちょくちょくいる。フランスらしい。

 だが、それが面白くないのはレティシア。自分ではなく、ベルを選んだことに内心で憤慨する。

「若い子にお金を渡してるとこ、写真撮られても文句はないですよね。感謝いたしますお父様」

 静かに、だが確実に怒りのボルテージが溜まる。自分でも驚きだが、シャルルのためなら初めての感情が溢れてくる。

 それに引き換え、文句のあるリオネルは顔が引き攣る。

「笑えねぇ……」

 ないですよね、て。あるだろそりゃ。美人て怖い。

 それに引き換え、溌剌とした声も返ってくる。

「ありがとー!」

「すみません、後でお返しします!」

 シルヴィとベルもリオネルに感謝する。付いてきたはいいものの、お金はほとんどない。見学だけで済ます予定だったので、ありがたい話だ。なにを買おうか、と早くも算段を立てる。

「いいって。もらっておきな。いつも〈ソノラ〉で頑張ってるんだろ?」

 一応はシャルルとベアトリスの保護者であるリオネルは、以前からベルのことは聞いており、今回は労いの意味を込める。ピアノをやっているというのは少し気になるが、娘が選んだ子だ。暖かく見守りたい。
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