Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
上 下
138 / 235
スピリトーゾ

138話

しおりを挟む
 うんうん、と頷きながら、リオネルはこの先を予見し、先んじて総評する。

「まさかそうくるとはね。面白い。青い花器からそこにいくのは、中々センスある」

 M.O.Fのお墨付き。店にある色々な道具を使ったが、それだけ知識があるということ。自身が同じ年の頃にできただろうか。いや、鼻を垂らしながらサッカーボールを追いかけていた。

 全て挿し終えたシャルルは、ベースごと手に抱える。

「できました。『エーゲ海』です」

 そう名付けたアレンジメント。誰かと競うものじゃない、というのが自分には合っている。ファーストインプレッションで、または一度脳をクリアにして。そこから生まれたものが、自分の想像する通りに作れたら。お客さんに寄り添うとか抜きにして楽しい。

 ハーバリウムなどで、固定させるために使うジェル。冷えて固まったそれに、ワイヤーで固定したプリザーブドフラワーを挿す。そうして出来上がったアレンジメントは、まるで花器の中で浮いているかのように見える。

「青い花器は海。そして塩分濃度が濃く、沈まない海といえばエーゲ海。なるほど。シンプルだがいいね」

 それを祝福するリオネル。たった三種類の花だけで、ここにギリシャとトルコに囲まれた海がある。想像することができる。

「よし、今度そういうテーマをもらったら真似しよう。子供がいい感じの作ってたんですー、って言っておけば、家族の仲の良さもアピールできるしな」

 強かな計算を挟みつつ、子供の成長に満足。そうか、そういうのもありだな。

「まぁ……別にかまいませんけど……」

 目立つことが好きなほうではないシャルルは、奥ゆかしく許可する。それより、今日ここに来た意味は店の手伝いもあるが、それと同時に。明日は万聖節。

「今日は泊まっていくんだろ? ベティには了承済みだけど」

 片付けをしつつ、今後を把握するリオネル。ベティはベアトリスのこと。シャルルに確認を取る。今夜から出かける予定。

 そのつもりで来たため、シャルルは首肯する。

「そうですね、本当なら姉さんにも行ってもらいたいですけど……」

「あいつ、朝弱いからなぁ」

 低血圧な娘のことをリオネルは思い出す。そうでなくても、昼も夜も不機嫌。特に自分に対して。

 仕方ない、というようにシャルルは姉の肩を持つ。

「夜は遅くまで起きているようなので。お店のことはだいたい姉さんがやってくれてます」

 それに今はひとりじゃないし。なんだかんだ、愚痴を言いつつもだが、つまりそれは口数が増えたということで。その要因は、ベル先輩なわけで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Parfumésie 【パルフュメジー】

キャラ文芸
フランス、パリの12区。 ヴァンセンヌの森にて、ひとり佇む少女は考える。 憧れの調香師、ギャスパー・タルマに憧れてパリまでやってきたが、思ってもいない形で彼と接点を持つことになったこと。 そして、特技のヴァイオリンを生かした新たなる香りの創造。 今、音と香りの物語、その幕が上がる。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※6話は3/30 18時~更新します。間が空いてすみません! 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

Réglage 【レグラージュ】

キャラ文芸
フランスのパリ3区。 ピアノ専門店「アトリエ・ルピアノ」に所属する少女サロメ・トトゥ。 職業はピアノの調律師。性格はワガママ。 あらゆるピアノを蘇らせる、始動の調律。

あやかし蔵の管理人

朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。 親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。 居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。 人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。 ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。 蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。 2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました! ※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...