Sonora 【ソノラ】

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コン・アニマ

120話

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 となると、サミーが気になるのはこの花達。

「これはどういうメッセージのアレンジメントなんだい?」

 映画に関してはいくらでも語れるが、さすがに花に関しては素人。解説を求める。

 ベアトリスは小瓶に触れ、花の声を届ける。

「飾らないこと。愛する人に対して、ありのままを見せること。それでいてほんの少しの化粧。最後に目に焼け付いてほしいのは、そんな自分なんじゃないかと思いました」

 スッと、さらに一歩、アレンジメントをサミーに近づけた。

 一瞬、瞳に悲しい色をベアトリスは見せたが、サミーは気づかず会話を続ける。

「それでシャンペトルなのか……なるほどね。たしかに、俺に合わせようと無理させすぎたかもね。なんせ一流の監督だからね」

 そう言ってはにかむサミーだが、当時を思い出しているのか、どこか絞り出されたような声になる。

 その様子を見て、ベアトリスはおそらく奥様の伝えたかったことは、まだ他にあるはずだと推測した。約五年の間を空けたことが、どこか腑に落ちない。

「奥様のご家族からも、この五年間という期間については聞かされていないのですね」

 少しでも情報を得ようと、再度ベアトリスは問う。あとふたつほどピースが足りていないような気がしていた。

「正確には四年半ほど前だね。亡くなる寸前に家族には、この時期になったら私に渡すように伝えていただけらしい。どうしてだろうね」

(四年半……それに名前だけ……)

 もう一度深くベアトリスは考える。五年という月日、ヴェルジェ・ド・フランス、エルメスのノーチラス。

 

 ……ノーチラス?

 名前だけの手紙?

 五年?

 そして、名前のイグレックの筆致。



 ひとつだけ、思い当たる節がある。

 ……そういうことかとベアトリスは……落胆した。

「……奥様は船がお好きだったりしますか?」

「船?」

 唐突に予想していなかった単語が出てきて、サミーは裏声で返してしまった。目を瞑り邂逅すると、ハッと思いつく。

「……そういえば船舶免許を持っていたね。昔はクルージングとダイビングが好きだったとか。俺と出会う前だから詳しくはわからないが。なぜわかったんだい?」

 どこに船が? この紙からそこにたどり着いた人はいなかった。スッキリとしない。

「ようやく繋がりました。しかし」

 コホン、と芝居がかった咳払いをして、ベアトリスはサミーに笑顔を作った。

「私はズケズケものを言ってよく怒られます」

 急になんだろうと、サミーが眉を顰める。改まって、そんなことを言われても。
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