Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
上 下
116 / 232
コン・アニマ

116話

しおりを挟む
「ですが、なぜこれを私のところに?」

 もちろん、映画をさほど観ないベアトリスも名前は知っている。が、これほどのビッグネームが来店するのはなにかある。鋭い彼女の勘が怪しさを告げた。

 サミーはくったくなく笑い、顔をベアトリスに近づけつつ囁いた。

「リオネルからの紹介でね。面白い花屋があると聞いたんだ。探偵のようだと」

「あー……そういうこと」

 あいつめ、とサミーに見えないように一瞬、苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべるが、すぐに気を取り直し、控えめな笑顔をベアトリスは浮かべた。

「残念ながら探偵ではないので、監督の求めるものにたどり着けるかわかりません」

 期待させすぎてもよくない。そもそもここは花屋だ。手紙の意味など、占い師にでも聞いてほしい。

「かまわないよ」

 亡くなった妻、と悲壮な内容にもかかわらず、サミーは晴れ晴れとしていた。そんな気を張らないで、とベアトリスのフォローも入れる。

「もう亡くなってしばらく経つからね。当初は私も酒に溺れるようなこともあったが、今ではこの通りさ。落ち込んでばかりいると、彼女に後ろからフライパンで殴られてしまうからね」

「……すごい奥様ですね……」

 と、笑顔を見せるサミーとは対照的に、ベアトリスは少しひくついた。だが、彼からは嘘偽りはないように見え、少し安堵する。なにか試している、というわけでもなさそうだ。

 サミーは視線をベアトリスから外し、店内のアレンジメントを見ながら、懐かしむような笑みを浮かべる。

「今でも妻のことは愛しているよ。正直この手紙はどうすべきか迷ったんだがね。これしか書いてない以上、調べようもないし、答えなんて本当は必要ないのかもしれない」

 どうするべきなんだろうね、とベアトリスに笑いかける。しかし、その手は微細に震えているようだった。そんな自分に気付いたのか、話題を変えた。

「この手紙の話を撮影現場で話したら、ちょうど来ていたリオネルから、そういうの得意な人物がいると聞いてね。こんなお若いお嬢さんだとは思わなかったが」

 少しだけイスに寄りかかった。一旦落ち着こう、という意味なのか、視野を広く取ってみる。

 心の内では葛藤するベアトリスだが、そんなことはおくびにも出さず、仕事は仕事と割り切る。

「そうだったんですね、まぁあの人は色んなところで手広くやってますから。三つ星レストランやら、シャネルやら」

 すごいですよね、と心にも思っていないことを口が勝手に。

 だが、その行動と心理のバランスのズレを見切ったサミー。人心の掌握は監督の役割。

「……キミはもしかして彼の……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ギャルJKが村の長に転生したので軽くデコって大国にしてみた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:6

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:31,609pt お気に入り:30,099

【完結】薔薇の花と君と

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,945pt お気に入り:43

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:512pt お気に入り:235

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,023pt お気に入り:4,217

新人魔女は、のんびり森で暮らしたい!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:278pt お気に入り:26

処理中です...