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アフェッツオーソ
104話
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「ファビアンさんは元フローリストだそうですよ。それもとても情熱的な。少し憧れちゃいますね」
頬を繋いでいない方の指で軽く掻いて、シャルルはなぜか決まり悪そうにする。
そこをベルは意地悪く突いた。
「そうだったんだ……似合わない、って言ったら怒られそう。でもシャルル君、情熱的な男性に憧れちゃうんだ? ならもっとさ、普段から手とか自分から積極的に繋いできてもいいんじゃない?」
「いや、あの……そんなつもりで言ったのでは……」
「んー?」
「うわあ! もうそれはやめてください!」
心を悟られまいとシャルルが顔を背けたところを、前方に回りこんだベルに抱きつきを許してしまう。まだ完全には極まっていなかったため、慌てつつもシャルルは引き離すことに成功する。だんだんと反射神経ゲームとなりつつある。
含み笑いで目を細めたベルが箴言を叙する。いつでも隙だらけなので、実はやろうと思えばいつでもいけるのだ。
「そんなんじゃ大人になったとき心配だよ」
「こんなことやるの、先輩とレティシアさんしかいません!」
「どうだか」
「むー……」
童顔の眉間に皴を寄せてもあまり威厳はない。むしろシャルルの幼さに一段と進行を加えただけにも見える。もう少し大人っぽくなりたいとは思うが、同級の男の子達と比べても背丈からしてそれも怪しい。それに姉の身長を考慮して、遺伝であるなら絶望的だろう。
心臓の鼓動を聞かれないように、たっぷりと間を置いた低い深呼吸の後、シャルルは切り出した。
「あ、先輩。左肩にブラッケンファーンの切れ端がついてますよ」
それはアレンジの小物として使ったそれを指した。
「え、嘘? どこ? なんで?」
合点がいかない、とベルは肩をまさぐった。
「小さいものですから。少し屈んでください、取りますね」
「なんでこんなとこに――」
と言いつつも、地下鉄に乗ったとき『肩に草の生えた女の子』として見られるのは嫌だな、と思い屈むことでお願いをする。あれ? ていうか、取るだけなら別に屈まなくてもいい気がするのに、と腑に落ちない不安を抱えていると、
その頬に、
柔らかな感触。
それはシャルルの唇が軽く当たった証拠。
「——え?」
目を瞑っているので、ちゃんとした位置に出来たかは定かではない。ただ少々間抜けなベルの声からして、ある程度はしっかりと触れたことはシャルルはわかった。
なんてことはない、挨拶程度のビズではある。なにも騒ぐ程の行為とは言えない。
しかし彼らの場合、それは大きな前進を示す。
自分からやったにもかかわらず、さらに深く朱に染まった顔全体を、また隙を作ってしまうというのも顧みずにシャルルは背ける。
そして、
「あの、仕返し、です!」
頬を繋いでいない方の指で軽く掻いて、シャルルはなぜか決まり悪そうにする。
そこをベルは意地悪く突いた。
「そうだったんだ……似合わない、って言ったら怒られそう。でもシャルル君、情熱的な男性に憧れちゃうんだ? ならもっとさ、普段から手とか自分から積極的に繋いできてもいいんじゃない?」
「いや、あの……そんなつもりで言ったのでは……」
「んー?」
「うわあ! もうそれはやめてください!」
心を悟られまいとシャルルが顔を背けたところを、前方に回りこんだベルに抱きつきを許してしまう。まだ完全には極まっていなかったため、慌てつつもシャルルは引き離すことに成功する。だんだんと反射神経ゲームとなりつつある。
含み笑いで目を細めたベルが箴言を叙する。いつでも隙だらけなので、実はやろうと思えばいつでもいけるのだ。
「そんなんじゃ大人になったとき心配だよ」
「こんなことやるの、先輩とレティシアさんしかいません!」
「どうだか」
「むー……」
童顔の眉間に皴を寄せてもあまり威厳はない。むしろシャルルの幼さに一段と進行を加えただけにも見える。もう少し大人っぽくなりたいとは思うが、同級の男の子達と比べても背丈からしてそれも怪しい。それに姉の身長を考慮して、遺伝であるなら絶望的だろう。
心臓の鼓動を聞かれないように、たっぷりと間を置いた低い深呼吸の後、シャルルは切り出した。
「あ、先輩。左肩にブラッケンファーンの切れ端がついてますよ」
それはアレンジの小物として使ったそれを指した。
「え、嘘? どこ? なんで?」
合点がいかない、とベルは肩をまさぐった。
「小さいものですから。少し屈んでください、取りますね」
「なんでこんなとこに――」
と言いつつも、地下鉄に乗ったとき『肩に草の生えた女の子』として見られるのは嫌だな、と思い屈むことでお願いをする。あれ? ていうか、取るだけなら別に屈まなくてもいい気がするのに、と腑に落ちない不安を抱えていると、
その頬に、
柔らかな感触。
それはシャルルの唇が軽く当たった証拠。
「——え?」
目を瞑っているので、ちゃんとした位置に出来たかは定かではない。ただ少々間抜けなベルの声からして、ある程度はしっかりと触れたことはシャルルはわかった。
なんてことはない、挨拶程度のビズではある。なにも騒ぐ程の行為とは言えない。
しかし彼らの場合、それは大きな前進を示す。
自分からやったにもかかわらず、さらに深く朱に染まった顔全体を、また隙を作ってしまうというのも顧みずにシャルルは背ける。
そして、
「あの、仕返し、です!」
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