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アフェッツオーソ
94話
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「それは……写真立て、ですか?」
二階から取り寄せたプラスチックケースから取り出したものを目にして、シャルルは声を立てた。なるほど、という嘆息をプラスして。
「チーク材を使った写真立て。プリザーブドフラワーではよく写真立てから飛び出すようなのがあるけれど、どっちかっていうとこれは――」
「うん、縁に飾るだけ。プリザーブドならこういうこともできるかな、ってベアトリスさんに聞いたら、代表的なものだって」
材質までパーフェクトな解説をする母から語り手を受け継いだベルは、ベアトリスに「ですよね?」と同意を求める。
ベアトリスは無言で頷いた。
「確かに、お祝いなどではよく贈られたりします。シンプルですが、それが逆に面白いかもしれませんね」
『花』と『容器』に捕われている。それが昨日シャルルがベルに講じたことだった。だが実際にはどうだ。ベルは『容器』ですらない発想を見せた。これはこの先のことを見据えるとシャルルは心が躍る。
「それとそれは……最初はモスを使うのがやりやすいのだけれど、型に縛られないところがこの子らしいわ」
「う……二人とも自分より詳しいから、なんかやりづらい……」
「あの、すみません……」
なんだか嬉しくなってしまい、作り手のお株を奪ってしまったことを詫びたシャルルはヒザで拳を握って受動の体勢を見せる。
そう強い意味を込めた愚痴ではなかったが、その確認してベルはなぜか自分が悪く思えて「ごめん」とお互いに謝ってしまった。
「いいわ、この先はなにも知らない、無垢なお客様として振舞います。じゃあこの消しゴムのようなものはなにかしら?」
パン、とセシルは高い音を両の掌で奏でる。今日は楽しもう。
「なんか、それはそれでやりづらいかも……それはセックっていう、縁に好きなように接着して好きなように花を挿すためのものなの」
「では、こちらの白い花のようなものはなんですか?」
その流れに便乗し、シャルルも質問を重ねる。しかし心の中、そして喉元には「ブ」という最初の一文字目が出掛かり、必死に抑えて飲み込む。それにこの先輩が正解してくれることを信じて。
「シャルル君まで……そっちはえーと……ブ、ブラッケンファーン? っていって、言っちゃえば装飾品かな。あたしも実は知らなくて、そんな感じのないかってベアトリスさんに聞いたんだけどね」
名前すら不鮮明ではあるが、記憶の糸を辿りつつベルは思い出す。それでもまだ確信を持てずにベアトリスを振り向くが、訂正の素振りがないことを確かめ安堵する。もし間違えていたら後で「あれほど教えただろ」と雷が落ちかねないからだった。実際昨日の時点で数分間隔で忘れて何度聞き返したのか覚えていない。
「まぁ、それくらいなら口の出しすぎ、ということにもなるまい。本来、店員であるなら知っているはずのことを調教するのは上の者の務めだ」
調教、という単語に一瞬冷や汗が流れたベルだが、それ以上に体が震えたのは弟であるシャルルだった。
フローリストは大人が大半であるのは、当然職業として存在するからであり、家業でなければ子供のうちから働くことはないと言ってよい。
二階から取り寄せたプラスチックケースから取り出したものを目にして、シャルルは声を立てた。なるほど、という嘆息をプラスして。
「チーク材を使った写真立て。プリザーブドフラワーではよく写真立てから飛び出すようなのがあるけれど、どっちかっていうとこれは――」
「うん、縁に飾るだけ。プリザーブドならこういうこともできるかな、ってベアトリスさんに聞いたら、代表的なものだって」
材質までパーフェクトな解説をする母から語り手を受け継いだベルは、ベアトリスに「ですよね?」と同意を求める。
ベアトリスは無言で頷いた。
「確かに、お祝いなどではよく贈られたりします。シンプルですが、それが逆に面白いかもしれませんね」
『花』と『容器』に捕われている。それが昨日シャルルがベルに講じたことだった。だが実際にはどうだ。ベルは『容器』ですらない発想を見せた。これはこの先のことを見据えるとシャルルは心が躍る。
「それとそれは……最初はモスを使うのがやりやすいのだけれど、型に縛られないところがこの子らしいわ」
「う……二人とも自分より詳しいから、なんかやりづらい……」
「あの、すみません……」
なんだか嬉しくなってしまい、作り手のお株を奪ってしまったことを詫びたシャルルはヒザで拳を握って受動の体勢を見せる。
そう強い意味を込めた愚痴ではなかったが、その確認してベルはなぜか自分が悪く思えて「ごめん」とお互いに謝ってしまった。
「いいわ、この先はなにも知らない、無垢なお客様として振舞います。じゃあこの消しゴムのようなものはなにかしら?」
パン、とセシルは高い音を両の掌で奏でる。今日は楽しもう。
「なんか、それはそれでやりづらいかも……それはセックっていう、縁に好きなように接着して好きなように花を挿すためのものなの」
「では、こちらの白い花のようなものはなんですか?」
その流れに便乗し、シャルルも質問を重ねる。しかし心の中、そして喉元には「ブ」という最初の一文字目が出掛かり、必死に抑えて飲み込む。それにこの先輩が正解してくれることを信じて。
「シャルル君まで……そっちはえーと……ブ、ブラッケンファーン? っていって、言っちゃえば装飾品かな。あたしも実は知らなくて、そんな感じのないかってベアトリスさんに聞いたんだけどね」
名前すら不鮮明ではあるが、記憶の糸を辿りつつベルは思い出す。それでもまだ確信を持てずにベアトリスを振り向くが、訂正の素振りがないことを確かめ安堵する。もし間違えていたら後で「あれほど教えただろ」と雷が落ちかねないからだった。実際昨日の時点で数分間隔で忘れて何度聞き返したのか覚えていない。
「まぁ、それくらいなら口の出しすぎ、ということにもなるまい。本来、店員であるなら知っているはずのことを調教するのは上の者の務めだ」
調教、という単語に一瞬冷や汗が流れたベルだが、それ以上に体が震えたのは弟であるシャルルだった。
フローリストは大人が大半であるのは、当然職業として存在するからであり、家業でなければ子供のうちから働くことはないと言ってよい。
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