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アフェッツオーソ
87話
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「『苦しみの緩和』? なるほど、完全に取り除くよりある程度残した方が次に繋がる、活かせるってわけね。抗体の分は残しておく、か。確かにそれもありかもしれないわね。ベアトリスさんはどうかしら?」
続いてセシルは、シャルルに言われたと思ったがそれが外れだったため、次の花を長考しているベアトリスに振る。
「そうだな、レンゲソウでないとしたらコキンバイザサ。『光を求める』といったところか。苦しむこともまた生きている証、と説かれたのかと」
その他にも数個候補はあるのだが、一番しっくりときた花をベアトリスは選んだ。しかし伺うセシルの表情に少々の苦味が加わり、それが正解ではないと知ると溜め息をついた。
「うん、それもありかしらね。それこそが生き様であり、抜け出せない悩みなどない。だから生きて求め続けよ。その人もそれくらいの能力があればよかったんだけど……残念。外れ」
やれやれ、と自らの過去を振り返り、ぶつくさとセシルは愚痴を並べ始める。
「そういった意味ではベルは幸せ者だわ」と絶賛されたシャルルは照れ隠しにお礼を述べた。まだまだ修行中の身である、とへりくだるが、内心では当然嬉しさが勝っている。
「二人とも本当に花の知識、そしてその応用力は素晴らしいわ。私がもしお客なら、こういうお店に是非アレンジしてもらいたいもの。って、まるで私が先生みたいな立場でものを言うのはおかしいわね」
知らず知らずにでかい顔をしてしまったことを弱く悔い、舌を出す仕草を見せるが、それも控えめにセシルは先端のみ出した。自分の年齢は一応心得ていた。しかしその子供っぽい仕草をすると多少だが若く見え、やはりその姿は娘と重なって見えた。
「いえ、そんなことはありません。シチュエーションに合わせた花を考える、それは一つの練習方法ですから、今はセシルさんに学ばせていただいてます。そういった意味では先生と言っていいと思います」
親子ともどもシャルルにお辞儀付きのフォローをされ、セシルはなにも返せなくなる。傍目にベルを庇うその姿は「優しくていい子ね」程度に映っていたのだが、いざ自分がその無垢な汚れのない笑みをセットでされると、たとえ左でも右と言ってしまう魔性が秘められている気がしたのだ。
「それで正解は、そのフローリストの方は一体どんな花をアレンジにしたのですか?」
その気を知らずに本題へと戻すシャルルを、ニヤけた頬で見ている自分に気付いたセシルが惑いを払いのける。
「そうね、あなた達は優秀ゆえにおそらく出てこないでしょうね。私もその時は花言葉を聞いて驚いたもの。なにを考えているんだ、って」
その本題の前置きから察するに、その場に相応しくないものなのだろう。そういった花は数多くある。しかし、その後にフローリストを目指そうと心がけるような花。その絞込みが難しく、ベアトリスに顔を向けるが、つまらなそうに口を尖らせ頬杖つき眉間に皴を寄せるという、明らかな不機嫌の三要素を覗かせていた。この状態は自分の思い通りに行かないときによく見られる仕草である。つまりそれが意味するものは、
「降参?」
そのセシルの発言にベアトリスは眉をピクリと動かし、シャルルは「……はい」と口頭で認めた。
「ならなんなんだ。もったいぶらずに言え」
次に来る言葉に、興味なさそうに見せつつもベアトリスは人一倍耳をそばだて、悔しさから直視してやるものか、と横目で睨むようにセシルの開く口元を見つめた。ゆっくりとその口が開く。
「『アガパンサス』よ」
「アガ――」
「――パンサス」
続いてセシルは、シャルルに言われたと思ったがそれが外れだったため、次の花を長考しているベアトリスに振る。
「そうだな、レンゲソウでないとしたらコキンバイザサ。『光を求める』といったところか。苦しむこともまた生きている証、と説かれたのかと」
その他にも数個候補はあるのだが、一番しっくりときた花をベアトリスは選んだ。しかし伺うセシルの表情に少々の苦味が加わり、それが正解ではないと知ると溜め息をついた。
「うん、それもありかしらね。それこそが生き様であり、抜け出せない悩みなどない。だから生きて求め続けよ。その人もそれくらいの能力があればよかったんだけど……残念。外れ」
やれやれ、と自らの過去を振り返り、ぶつくさとセシルは愚痴を並べ始める。
「そういった意味ではベルは幸せ者だわ」と絶賛されたシャルルは照れ隠しにお礼を述べた。まだまだ修行中の身である、とへりくだるが、内心では当然嬉しさが勝っている。
「二人とも本当に花の知識、そしてその応用力は素晴らしいわ。私がもしお客なら、こういうお店に是非アレンジしてもらいたいもの。って、まるで私が先生みたいな立場でものを言うのはおかしいわね」
知らず知らずにでかい顔をしてしまったことを弱く悔い、舌を出す仕草を見せるが、それも控えめにセシルは先端のみ出した。自分の年齢は一応心得ていた。しかしその子供っぽい仕草をすると多少だが若く見え、やはりその姿は娘と重なって見えた。
「いえ、そんなことはありません。シチュエーションに合わせた花を考える、それは一つの練習方法ですから、今はセシルさんに学ばせていただいてます。そういった意味では先生と言っていいと思います」
親子ともどもシャルルにお辞儀付きのフォローをされ、セシルはなにも返せなくなる。傍目にベルを庇うその姿は「優しくていい子ね」程度に映っていたのだが、いざ自分がその無垢な汚れのない笑みをセットでされると、たとえ左でも右と言ってしまう魔性が秘められている気がしたのだ。
「それで正解は、そのフローリストの方は一体どんな花をアレンジにしたのですか?」
その気を知らずに本題へと戻すシャルルを、ニヤけた頬で見ている自分に気付いたセシルが惑いを払いのける。
「そうね、あなた達は優秀ゆえにおそらく出てこないでしょうね。私もその時は花言葉を聞いて驚いたもの。なにを考えているんだ、って」
その本題の前置きから察するに、その場に相応しくないものなのだろう。そういった花は数多くある。しかし、その後にフローリストを目指そうと心がけるような花。その絞込みが難しく、ベアトリスに顔を向けるが、つまらなそうに口を尖らせ頬杖つき眉間に皴を寄せるという、明らかな不機嫌の三要素を覗かせていた。この状態は自分の思い通りに行かないときによく見られる仕草である。つまりそれが意味するものは、
「降参?」
そのセシルの発言にベアトリスは眉をピクリと動かし、シャルルは「……はい」と口頭で認めた。
「ならなんなんだ。もったいぶらずに言え」
次に来る言葉に、興味なさそうに見せつつもベアトリスは人一倍耳をそばだて、悔しさから直視してやるものか、と横目で睨むようにセシルの開く口元を見つめた。ゆっくりとその口が開く。
「『アガパンサス』よ」
「アガ――」
「――パンサス」
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