Sonora 【ソノラ】

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アフェッツオーソ

77話

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「別にお前一人ついていればわからないこともないだろうが、まぁせっかくだ。面白そうだし、乗ってやる。そういうことだ、どうか受け取ってやってくれ。セシルほどのフローリストが満足できる作品が出来上がるかどうか、そこは未知数だがな」

 悪巧みをする時に浮かべるベアトリスの表情を見て、シャルルは一瞬「まずいかも」と冷汗を流した。

 かつて、この笑みを彼女が見せた時のことがシャルルの頭で再生された。

 就寝前に見た時は、朝起きたら同じベッドに彼女がいた。フランスでは寝る際に下着を着けて寝る人は全体的に見て少数派である。あの時はシャルルも背筋が凍ったものだ。シャワーを浴びる前に見た際は、浴室に入ってきた。他にも……と挙げればキリがない。もしそれと同じであるなら、自分は最大のミスを犯したかもしれない、と考えたのだ。

「……二人とも、ありがとう」

 そんな数秒前の自分を戒めて葛藤するシャルルの焦りを露も知らず、頼りになる助っ人を獲得したことによる安堵からなのか、ベルが小さく述べる陳謝にも心なしか力が漲っているように思える。実際これほど頼りになるフローリストは世界を探してもこの二人以外にいない、とさえ思うほどに湧き上がるものを感じていた。

 驚きという概念を表情で表していたセシルも、次第に柔和に綻ばせていった。そして静かに説く。

「……ベル、技術なんてものは後からついてくるもの。あなたが伝えたいことにそれはあまり意味をなしません。ただ」

 もう一度優しく抱き寄せ、耳元でそっと囁いた。

「楽しみにしてるわ」

「ありがとう、ママ……」

 ゆっくりと離すと、足元に物言わず鎮座していたハンドバッグを持ち、セシルは帰る準備に入った。この行動の意味として、長年娘を見続けてきた経験からくる確定予測が絡んでいる。それは、

「明日また来ます。パパもそろそろ帰ってくる頃だし、食事の用意をしないとね。それにあなたのことだから、どんなアレンジするかとか考えてないんでしょう?」

「う……」

 胸に圧迫感を覚え、重たい声を上げてベルは店内のアレンジへ視線を投げた。

「その顔は図星ね。あなたは昔から、まず言ってから考えるタイプだったわね」

「まぁ、考えるだけで実行しないよりは救いはあるがな」

 あまりありがたみのないベアトリスのフォローを入れられ、自分の足元が揺らぐのを悟ると、ベルは内心に呟く。「なぜわかった」と。

 指摘どおり、どういった色合いにしよう、どういった種類の花にしよう、どういったメッセージにしよう、どういった容器にしよう。それらをなにも考えていないのは、紛れもない事実であった。そういったものは一流のフローリストであれば当然その場で考える。来店してくださったお客様にその場でお渡しするのが仕事だからだ。

 しかしそれはあくまで一流であり、まだ駆け出しというのであれば、アレンジの一つ一つに時間がかかるのは必然とも言える。

 フローリストにとって一番ありがたいのは『お客様が一つ一つ、色や花の種類を指定してくれること』である。そうすれば失敗もないし、なにより簡単に出来る。時間も掛からない。
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