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アフェッツオーソ
76話
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もちろんベアトリス以外に使おうと思えば使うことはできるし、それがお客様の要望であれば応えるのが筋と言える。だがそれでもやはり、ちぐはぐな言語になってしまうことは薄々感づいていたのだ。それならばもし許されるのであれば、そのままの自然体でいかせていただく。それがシャルルの信念であった。
「……ねぇママ、一つお願いがあるの」
セシルの胸元にうずくまり、傍観のポジションを維持していたベルが顔を上げて口を開く。
至近距離で見える娘の顔。赤く腫れぼったくなった目元。すする鼻。すべてが愛おしく見え、セシルは瞳を一ミリたりとも逸らさずに応じた。
「なにかしら? 欲しいものがあるなら、あまり高くないものでね」
冗談めかしたセシルの一言に、ベルは長らくご無沙汰であった笑みがこぼれる。「違うの」と否定を下す。
「あたしが貰うんじゃなくて、ママに贈りたいの」
「贈る? それがお願い、ってどういうことかしら?」
セシルは目を点にした。
「うん、一生のお願い、とは言えないけど、どうしても受け取ってほしいものがあるの。ダメ、かな?」
「とりあえず聞いてみるわ。一体何かしら?」
促しの発言を耳にし、深呼吸のその生暖かいベルの息がセシルの首元にかかる。緊張、というわけではないが、息を整える必要があるように思えたのだった。二回吐き、三回目を吸い込むと、その勢いに乗せ言の葉を放つ。
「お願い、あたしの花を……受け取ってほしいの」
言い切り、ベルは目を瞑る。長い睫毛が強調され、セシルの視線はそこに定まった。
瞬きを八回ほどするたっぷりの猶予。その間にセシルは用件を整えた。
「アレンジを? あなた、だってまだ――」
「うん、まだ作ったこと、ない……」
あはは……、とベルは照れ笑いを見せる。
「でも、一通りアレンジのやり方は覚えたし、花言葉も少しだけど覚えたもん。そりゃあ、シャルル君やベアトリスさんみたいには、まだ無理……だけど、最初のアレンジはママに受け取ってほしいの」
「でも——」
「よろしいのではないでしょうか」
失礼とは存じながらも、狼狽の色を隠せないセシルの語を遮り、シャルルが身を乗り出す。
「僕や姉さんも、わからないところがあればお手伝いします。ね、姉さん?」
話のスポットを当てられ、曖昧に返事しながらもその流れにベアトリスも便乗する。
「……ねぇママ、一つお願いがあるの」
セシルの胸元にうずくまり、傍観のポジションを維持していたベルが顔を上げて口を開く。
至近距離で見える娘の顔。赤く腫れぼったくなった目元。すする鼻。すべてが愛おしく見え、セシルは瞳を一ミリたりとも逸らさずに応じた。
「なにかしら? 欲しいものがあるなら、あまり高くないものでね」
冗談めかしたセシルの一言に、ベルは長らくご無沙汰であった笑みがこぼれる。「違うの」と否定を下す。
「あたしが貰うんじゃなくて、ママに贈りたいの」
「贈る? それがお願い、ってどういうことかしら?」
セシルは目を点にした。
「うん、一生のお願い、とは言えないけど、どうしても受け取ってほしいものがあるの。ダメ、かな?」
「とりあえず聞いてみるわ。一体何かしら?」
促しの発言を耳にし、深呼吸のその生暖かいベルの息がセシルの首元にかかる。緊張、というわけではないが、息を整える必要があるように思えたのだった。二回吐き、三回目を吸い込むと、その勢いに乗せ言の葉を放つ。
「お願い、あたしの花を……受け取ってほしいの」
言い切り、ベルは目を瞑る。長い睫毛が強調され、セシルの視線はそこに定まった。
瞬きを八回ほどするたっぷりの猶予。その間にセシルは用件を整えた。
「アレンジを? あなた、だってまだ――」
「うん、まだ作ったこと、ない……」
あはは……、とベルは照れ笑いを見せる。
「でも、一通りアレンジのやり方は覚えたし、花言葉も少しだけど覚えたもん。そりゃあ、シャルル君やベアトリスさんみたいには、まだ無理……だけど、最初のアレンジはママに受け取ってほしいの」
「でも——」
「よろしいのではないでしょうか」
失礼とは存じながらも、狼狽の色を隠せないセシルの語を遮り、シャルルが身を乗り出す。
「僕や姉さんも、わからないところがあればお手伝いします。ね、姉さん?」
話のスポットを当てられ、曖昧に返事しながらもその流れにベアトリスも便乗する。
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