Sonora 【ソノラ】

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アフェッツオーソ

74話

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 本題を切り出したのは、先に考えをまとめ上げ、自らの感想も添付したシャルルだった。

「例えば幽霊の話をテレビで聞いても、どこか作り物であるという思い込みが感覚を鈍らせる。しかし、親しい友人や家族が実際にあって、嘘じゃないとわかると途端に信じてしまう。今回の場合は幽霊ではなくレイノー、というわけか」

 それに呼応してベアトリスも具体例を付け足す。もちろん示し合わせていたわけではない。しかし、その息はぴったりと合っており、互いで『ろくろ』のように形作れている。「あくまで仮定の話、ですが」と保険も効かせるが、たとえ正解がなんであれ、そうだと信じてしまいそうな深く納得させる力を持つ。

「そう、かもしれないわね。まだあなた達ではわからないかもしれないけれど、自分が知ってしまった不幸。それって、自分の子供にだけは味わわせたくないものなの。絶対に、どんなことをしてでも」

 セシル自身もその二つの解答例を慎重に査定し、肯定する。

「だからってベル、あなたにどちらかを捨てるということを薦めているわけではないわ。だって最近のあなた、すごく生き生きしていて楽しそう。ピアノにだってそれは見て取れるわ。子供のそういった姿を楽しむってのも親の特権ね」

「……」

 いつの間にか顔を上げていたベルにセシルは目配せをした。古臭い仕草をあえてやることで少しでも和らげよう、という意図も少なからずあったが、どうもあまり効果はないと見て、次の語を継ぐ。

「ただ、そういったこともあるっていうのを知っていて欲しかった、それ以外にはなにもない。それだけよ」

 それは、引き金として十分な機能を果たした。

「…………ママァ……」

 またも端麗な顔を歪ませ、人目憚らず声を上げてベルは泣きじゃくる。無理して半端に引き止めた分、その堰がおかしな具合に崩壊した結果である。

 恐怖と、母親から感じる愛。それらが混じりあい、感情の捌け口は『大泣き』という道を選んだ。

「はいはい、こっちいらっしゃい。ああもう、大きな赤ん坊だこと」

 水分の豊かな目をこすり、しゃっくりを患ったのか小刻みに痙攣するベルを、軽く手を広げセシルは胸に迎え入れた。よろよろと千鳥足で歩を進める娘を包み込むように抱きしめると、その体だけは大きくなっているが、精神年齢はまだまだか、と大息ついでに独語する。でもまあ、たまにはこんな日もあっていいんじゃないだろうか。それが結論だった。

 言葉を解していないが、ベルも同じ結論に至り、黙ってその状態を味わうことに今日だけは決めた。そういえば、最後にこうしてもらったのはいつだろうか。そんなことを呑気に考える余裕も生まれた。

「とりあえずは一件落着、かな……って姉さん、手を広げても僕はしないからね」
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