Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
上 下
60 / 235
アフェッツオーソ

60話

しおりを挟む
 それはいきなりであり、しかしベルは自分の想いが通じたか、とは考えなかった。なんとなく、彼の中に迷いのようなものを感じたから。だから、

「じゃあ、これは?」

 その思わず家まで持ち帰ってしまいたくなるシャルルの反応に、悪戯心がざわめき、妖しく笑みを浮かべると、つなぐ程度であった指と指を絡めるように持ち直した。指伝いにシャルルの動揺が文字通り、手に取るようにわかった。

「あ、あの……ずるいです……」

(——勝った!)

 無意識に一瞬上げてベルと合わせたシャルルの顔は、沸騰を思わせる朱に染まり、さらにもじもじと恥らう。しかしその手を離そうとしないところから、本心では嫌がっているわけではなかった。もしクラスの子に見られたら、といった懸念よりも、そちらを選択したのだ。

 そのすべてを悟ったベルは、三人の女性の顔を頭に浮かべて勝利宣言をする。そしてやはりこの少年に対し思うこと。

(普通に可愛い……なんかショック……)

 女性として負けを感じた。しかしすぐ気を取り直す。

「ところで、お店ってまだなの?」

 そういえば知らされていない、と足を止める。横をスイスイとすり抜けていく人々の群れが「いきなり立ち止まるな」という風に視線を投げかけ、ベルは肩をすぼめてはにかんだ。

 気を抜いてたのか、二秒ほどのタイムラグを要し、シャルルは質問の意味を理解した。

「え? あ、その角を曲がったところです。すいません、ぼーっとしてて……」

「そこ?」

 指を指して確認し、肯定を受け取ると、マロニエの続く並木道沿いに小さく、ハンドメイド専門の店がある。知る人ぞ知る、そんな店である。

「はい、ここです。早速入りましょう」

「それにしても、なんで雑貨なの? あ、誰かにプレゼントしたいとか?」

 いやでも、それが他の女性の場合少し複雑かも、と言って気付いたが、実は自分のためだった、とかサプライズを演出しているのかも、など、妄想に歯止めがきかない。が、大好きな店に来て興奮したのか、シャルルは目を輝かせてまくしたてた。

「ここのお店、すっごく個性的なバスケットが売ってて、よく来るんです。絶対に先輩も気に入るのがあるはずです。他にも、この先の雑貨屋さんはチェーン店なんですけど、そこは安いのに品質のいいウォールバスケットがあったり、それから道の反対なんですけど、そこのお店はエスニックな雰囲気のが多くて、それと少し奥まったところになってしまうんですけどそこには……あの、どうかしましたか、先輩?」

「あ、そう、だよね……うん……」

 やはり、先は長いらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

胡蝶の夢に生け

乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』 それは、小倉百人一首。 現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。 千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。 情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。

僕とあの子と一ヶ月

黒沢ハコ
キャラ文芸
僕は、気がついたときには1人でいた。 そんなあるとき、 僕は一人の人に拾われて、 また捨てられて、彼女にあった。 余命一ヶ月のレイ。 僕は、彼女と一ヶ月だけ過ごす。 しゃべれなかったレイがしゃべり、 一緒にごはんを食べ、 遊んで、本を読んで...... 毎日が幸せだった、はずだった。 僕とレイの一ヶ月と、 レイがいなくなってしまってからの 僕の小さな物語。

そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ
キャラ文芸
「この俺が結婚してやると言ってるんだ。  必ず、幸運をもたらせよ」  入社したての桐島葉名は、幸運をもたらすというペペロミア・ジェイドという観葉植物を上手く育てていた罪で(?)、悪王子という異名を持つ社長、東雲准に目をつけられる。  グループ内の派閥争いで勝ち抜きたい准は、俺に必要なのは、あとは運だけだ、と言う。  いやいやいや、王子様っ。  どうか私を選ばないでください~っ。  観葉植物とお片づけで、運気を上げようとする葉名と准の婚約生活。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

義妹がいればそれだけでいいのでしょう?

新野乃花(大舟)
恋愛
ソリッド伯爵はミラというれっきとした婚約者を持っておきながら、妹であるセレーナにばかり気をかけていた。そのセレーナも兄が自分の事を溺愛しているということをよくわかっているため、ことあるごとに被害者面をしてミラの事を悪者にし、自分を悲劇のヒロインであると演出していた。そんなある日の事、伯爵はセレーナさえいてくれればなんでもいいという考えから、ミラの事を一方的に婚約破棄してしまう…。それこそが自らを滅ぼす第一歩になるとも知らず…。

煌焔〜いつか約束の地に至るまで〜

紫南
キャラ文芸
浄化の力を持つ一族『華月院』 そこに無能と呼ばれ、半ば屋敷に軟禁されて生きてきた少女 華月院樟嬰《カゲツインショウエイ》 世話役の数人にしか見向きもされず、常に処分を考えられる立場。 しかし、いつしか少女は自分を知るため、世界を知るために屋敷を脱け出すようになるーーー 知ったのは自身に流れる特別な血と、人には持ち得ないはずの強力で膨大な力。 多くの知識を吸収し、身の守り方や戦い方を覚え外での立場を得る頃には 信頼できる者達が集まり、樟嬰は生きる事に意味を見出して行く。 そしてそれは、国をも揺るがす世界の真実へと至るものだったーーー *異色のアジアン風ファンタジー開幕!! ◆他サイトで別名で公開していたものを移動、改稿の上投稿いたしました◎ 【毎月10、20、30日の0時頃投稿予定】 現在休載中です。 お待ちください。 ファンタジーからキャラ文芸に変更しました。

憑かれて恋

香前宇里
キャラ文芸
女性編集者とインテリ住職の恋愛ファンタジーです。 (注:プチホラー有)

愚者の園【第二部連載開始しました】

木原あざみ
キャラ文芸
「化け物しかいないビルだけどな。管理してくれるなら一室タダで貸してやる」 それは刑事を辞めたばかりの行平には、魅惑的過ぎる申し出だった。 化け物なんて言葉のあやで、変わり者の先住者が居る程度だろう。 楽観視して請け負った行平だったが、そこは文字通りの「化け物」の巣窟だった! おまけに開業した探偵事務所に転がり込んでくるのも、いわくつきの案件ばかり。 人間の手に負えない不可思議なんて大嫌いだったはずなのに。いつしか行平の過去も巻き込んで、「呪殺屋」や「詐欺師」たちと事件を追いかけることになり……。

処理中です...