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アフェッツオーソ
56話
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「子への接し方、子供へ注いだ愛は、大きくなってから確認するものです。もう一度、見つめてあげてください。そして、抱きしめて、本音を語ってあげてください。子供って、案外そういうのに弱いんです」
目の前に佇む女性が発する救難信号は、むしろ自分のような子供の意見だからこそ、助けられるものもあるのではないか、と考えた上でシャルルは助言した。言い終わってから「出すぎた真似をしてしまい、申し訳ありません」と懇ろに頭を下げる。
「それは、自分がそうしてもらったからなのかしら? もしそうだとしたら、それは助言というよりただの経験談ね。でも……ありがとう。ここへ来てよかったわ」
シャルルの話す言葉に妙な説得力を見出し、女性は推し量るが、それよりも感謝の気持ちが上回った。なにか思うところがあったようにも見える。
「お役に立てたのであれば光栄です、というか、その通りの経験談なんですけどね」
種明かしをするシャルルは、舌を出しておどけてみせた。
「ふふ、自分の子供といってもおかしくないくらいの年の子に、この年になってまさか訓誨されるなんて思ってもみなかったわ。お金、ここに置いていくわね」
つい口元が緩んで女性は皴を作る。言葉とは裏腹な満ち足りた表情。
しかし、その支払われた代金にシャルルは声を上げた。
「あの、こんなにいただけません。いくらなんでも、多すぎます」
支払われた金額。それは、本来の倍はあろうかという額で、失礼だと承知でシャルルは半額突き返す。チップにしては多すぎるそれを手放しで喜べない、まだ未熟だと悟っている小さなプライド。そのまま視線を合わせずに数秒の時間が流れる。
「ごめんなさい。でもいいのよ、今日は楽しい話を聞けたし。それにこの花の代金だけではないわ。それじゃあ包んでもらってもいいかしら、小さなフローリストさん」
真意を読み取ったかのように女性は謝罪の言葉を口にし、代金をそっとシャルルの手に握らせ、持ち帰りの準備を進める。
その手、その指先からは、温柔な笑顔とは似ても似つかない冷たさをシャルルは感じた。それが指し示すものは。
「ですが――」
「よせシャルル。包んでさしあげろ」
食い下がるシャルルを制し、ベアトリスが次の手順を指し示す。これ以上はお客様に恥をかかせることになると判断しての指示だった。それはシャルルもわかっているはず、そしてその裏に隠れた意味もわかった上だ、とも。
「姉さん……はい、少々お待ちください」
もう一度リセットの笑顔を作り、シャルルは店の奥から透明なボックスタイプの包みを取り出す。袋が持ち帰りでは主流となりつつあるが、それはバスケットや籠、花の種類によっては当然変えなくてはならない。
特に今回のような細い足のイスの場合、袋の中でバスケットなどに比べて揺れやすく、向いているとは言い難い。抱きかかえた方が安全に持ち帰ることが可能。そうでなくても袋に入れることで、花と内面がどうしても触れてしまうことに躊躇いがあり、極力使わないようにしている。
以前ベルに作ったアレンジでは足が短く太いものを使用したため、普段通りのフラワーラップでよかったのだが、今回ばかりはそうもいかない。
慎重に箱に詰め、先に入れておいた台座に容器を緩衝材で包んではめ込み、足を固定する。最後にピンク色のリボンを縦に結び、味気なかった箱にポイントをシャルルはプラスした。
その心が行き届いたサービスに、花と一緒に真心を受け取った感覚を女性は覚えた。深くお礼をし、店を後にする。その足取りは軽いが、どこか寂しげな重さもある。
目の前に佇む女性が発する救難信号は、むしろ自分のような子供の意見だからこそ、助けられるものもあるのではないか、と考えた上でシャルルは助言した。言い終わってから「出すぎた真似をしてしまい、申し訳ありません」と懇ろに頭を下げる。
「それは、自分がそうしてもらったからなのかしら? もしそうだとしたら、それは助言というよりただの経験談ね。でも……ありがとう。ここへ来てよかったわ」
シャルルの話す言葉に妙な説得力を見出し、女性は推し量るが、それよりも感謝の気持ちが上回った。なにか思うところがあったようにも見える。
「お役に立てたのであれば光栄です、というか、その通りの経験談なんですけどね」
種明かしをするシャルルは、舌を出しておどけてみせた。
「ふふ、自分の子供といってもおかしくないくらいの年の子に、この年になってまさか訓誨されるなんて思ってもみなかったわ。お金、ここに置いていくわね」
つい口元が緩んで女性は皴を作る。言葉とは裏腹な満ち足りた表情。
しかし、その支払われた代金にシャルルは声を上げた。
「あの、こんなにいただけません。いくらなんでも、多すぎます」
支払われた金額。それは、本来の倍はあろうかという額で、失礼だと承知でシャルルは半額突き返す。チップにしては多すぎるそれを手放しで喜べない、まだ未熟だと悟っている小さなプライド。そのまま視線を合わせずに数秒の時間が流れる。
「ごめんなさい。でもいいのよ、今日は楽しい話を聞けたし。それにこの花の代金だけではないわ。それじゃあ包んでもらってもいいかしら、小さなフローリストさん」
真意を読み取ったかのように女性は謝罪の言葉を口にし、代金をそっとシャルルの手に握らせ、持ち帰りの準備を進める。
その手、その指先からは、温柔な笑顔とは似ても似つかない冷たさをシャルルは感じた。それが指し示すものは。
「ですが――」
「よせシャルル。包んでさしあげろ」
食い下がるシャルルを制し、ベアトリスが次の手順を指し示す。これ以上はお客様に恥をかかせることになると判断しての指示だった。それはシャルルもわかっているはず、そしてその裏に隠れた意味もわかった上だ、とも。
「姉さん……はい、少々お待ちください」
もう一度リセットの笑顔を作り、シャルルは店の奥から透明なボックスタイプの包みを取り出す。袋が持ち帰りでは主流となりつつあるが、それはバスケットや籠、花の種類によっては当然変えなくてはならない。
特に今回のような細い足のイスの場合、袋の中でバスケットなどに比べて揺れやすく、向いているとは言い難い。抱きかかえた方が安全に持ち帰ることが可能。そうでなくても袋に入れることで、花と内面がどうしても触れてしまうことに躊躇いがあり、極力使わないようにしている。
以前ベルに作ったアレンジでは足が短く太いものを使用したため、普段通りのフラワーラップでよかったのだが、今回ばかりはそうもいかない。
慎重に箱に詰め、先に入れておいた台座に容器を緩衝材で包んではめ込み、足を固定する。最後にピンク色のリボンを縦に結び、味気なかった箱にポイントをシャルルはプラスした。
その心が行き届いたサービスに、花と一緒に真心を受け取った感覚を女性は覚えた。深くお礼をし、店を後にする。その足取りは軽いが、どこか寂しげな重さもある。
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