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コン・フォーコ
43話
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「ありがとうございます。ではベル先輩、部屋への案内、よろしくお願いします。すぐにお持ちしますから」
レティシアに左手を、ベルに右手を微笑みとセットでシャルルは差し出す。その小さな手を受け入れる事を一瞬躊躇ったが、そっと差し出しレティシアは立ち上がると、ベルに視線を定めた。なにか言いたげではあるが、エネルギーが足りていないのか、言い止めてしまう。
レティシア同様にシャルルに掴まったベルは、勢いよく立ち上がって仰々しく敬礼する。
「うん、わかった」
信頼を胸に了解しそれを受け止めると、足早にシャルルがキーパーのある扉の中に入っていくのを見届け、落ち着きなく震えるレティシアの手を鎮圧するようにベルは力強く握る。
シルヴィも「よっしゃ!」と元気さを測るには十分な声で返す。それは無理にでも明るく振舞って、不安定なバランスをとるレティシアを守る、という頼もしさを感じさせた。それを読み取り、二人は胸が熱くなる。
しかし、数歩で辿り着くまでの短い時間に、様々な事象がベルの頭を駆け巡り、ヴァイオレットの瞳を小刻みに揺らす。どことなく焦点も定まらない。扉にそっと触れ、しかし開けずに振り向いてレティシアを正面で捉えた。
「……ねえ、レティシア」
「どうしたの? 軽蔑でもした? 構わないわ」
二人が自分を倫と見てくれていることは、気を抜けば熱い涙が流れてしまうほどに感じており、心から謝意を表したい。だがレティシアは自分自身を見下す言葉を不躾に投げかけてしまい、また胸にチクリと棘が刺さる。それは自分から彼女らに距離を作ろうとしているようにも見えた。
以前、同じ気持ちを抱いてこの店に入ったベルは、レティシアのその行為の理由がなんとなくわかる。だからこそ、強く頭を振って否定した。
「違う! お願いだから、そんなこと言わないで……」
「そうだそうだ。お前がなんか昔色々あったことはわかったけど、それはあたし達の仲が壊れる理由にしちゃ安すぎるぞ!」
塞ぎこむレティシアを、ベルとシルヴィは口を極めて両側から支える。
どうしてあなた達はそんなにも。やるせない心情を表すかのように、ぷっくりと腫れぼったくなった唇を噛む。妙にその痛みが心地よく感じられ、レティシアはさらに強く力を入れた。それが少しでも自分への罰となるように。
続く言葉をいくつも用意しているが、なかなか口にすることが出来ず、ベルは自分の心臓の鼓動を放つ左胸に右手を当てる。少々いつもより早い。七つほど数えると、八つ目で決意、九つ目で胸中を吐露した。
「……あたし、すごくレティシアのことを尊敬してるの。家族のことであんなになれるなんて、愛してる証拠だと思うし、もしあたしがレティシアの妹だったら、自慢の姉だよ。だから自分で自分を蔑まないで、お願い」
目を逸らさず言い切る。
その姿を直視できずに、恥ずかしそうにレティシアは視線を逃がした。その視線の先には、もう一人、友と呼べる存在がいた。自分とはなにもかも正反対だとは、向こうも思っているはず。常になにも考えていないようで、実は友人のことを真剣に考えてくれる。
いつからだ。この心が、自由に世界を捉えなくなったのは。あの子がいなくなってから? ロケットにあの子を詰め込み、もうこの世にはいないと実感してから? いや、そんなことはどうでもいい。今、自分を見つめてくれる人達がいると、そう気付いたのだから。
やがて自分の胸に手を当て、静かにレティシアは応じた。それはベルと同じ仕草。なにか一つ、心で弾ける。
レティシアに左手を、ベルに右手を微笑みとセットでシャルルは差し出す。その小さな手を受け入れる事を一瞬躊躇ったが、そっと差し出しレティシアは立ち上がると、ベルに視線を定めた。なにか言いたげではあるが、エネルギーが足りていないのか、言い止めてしまう。
レティシア同様にシャルルに掴まったベルは、勢いよく立ち上がって仰々しく敬礼する。
「うん、わかった」
信頼を胸に了解しそれを受け止めると、足早にシャルルがキーパーのある扉の中に入っていくのを見届け、落ち着きなく震えるレティシアの手を鎮圧するようにベルは力強く握る。
シルヴィも「よっしゃ!」と元気さを測るには十分な声で返す。それは無理にでも明るく振舞って、不安定なバランスをとるレティシアを守る、という頼もしさを感じさせた。それを読み取り、二人は胸が熱くなる。
しかし、数歩で辿り着くまでの短い時間に、様々な事象がベルの頭を駆け巡り、ヴァイオレットの瞳を小刻みに揺らす。どことなく焦点も定まらない。扉にそっと触れ、しかし開けずに振り向いてレティシアを正面で捉えた。
「……ねえ、レティシア」
「どうしたの? 軽蔑でもした? 構わないわ」
二人が自分を倫と見てくれていることは、気を抜けば熱い涙が流れてしまうほどに感じており、心から謝意を表したい。だがレティシアは自分自身を見下す言葉を不躾に投げかけてしまい、また胸にチクリと棘が刺さる。それは自分から彼女らに距離を作ろうとしているようにも見えた。
以前、同じ気持ちを抱いてこの店に入ったベルは、レティシアのその行為の理由がなんとなくわかる。だからこそ、強く頭を振って否定した。
「違う! お願いだから、そんなこと言わないで……」
「そうだそうだ。お前がなんか昔色々あったことはわかったけど、それはあたし達の仲が壊れる理由にしちゃ安すぎるぞ!」
塞ぎこむレティシアを、ベルとシルヴィは口を極めて両側から支える。
どうしてあなた達はそんなにも。やるせない心情を表すかのように、ぷっくりと腫れぼったくなった唇を噛む。妙にその痛みが心地よく感じられ、レティシアはさらに強く力を入れた。それが少しでも自分への罰となるように。
続く言葉をいくつも用意しているが、なかなか口にすることが出来ず、ベルは自分の心臓の鼓動を放つ左胸に右手を当てる。少々いつもより早い。七つほど数えると、八つ目で決意、九つ目で胸中を吐露した。
「……あたし、すごくレティシアのことを尊敬してるの。家族のことであんなになれるなんて、愛してる証拠だと思うし、もしあたしがレティシアの妹だったら、自慢の姉だよ。だから自分で自分を蔑まないで、お願い」
目を逸らさず言い切る。
その姿を直視できずに、恥ずかしそうにレティシアは視線を逃がした。その視線の先には、もう一人、友と呼べる存在がいた。自分とはなにもかも正反対だとは、向こうも思っているはず。常になにも考えていないようで、実は友人のことを真剣に考えてくれる。
いつからだ。この心が、自由に世界を捉えなくなったのは。あの子がいなくなってから? ロケットにあの子を詰め込み、もうこの世にはいないと実感してから? いや、そんなことはどうでもいい。今、自分を見つめてくれる人達がいると、そう気付いたのだから。
やがて自分の胸に手を当て、静かにレティシアは応じた。それはベルと同じ仕草。なにか一つ、心で弾ける。
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