30 / 235
コン・フォーコ
30話
しおりを挟む
「なあ、確か〈ソノラ〉でバイトも始めたんだよな。ピアノと花屋のバイトってのは水と油みたいなもんなんだろ?」
シルヴィがその座り方に似つかわしい、唇を突き出し、少々野暮ったい口調でレティシアに問う。これが素の彼女である。
「ええ、特にこれから冬にかけては苦行となるやもしれないわね。寒空の下で水に手を浸けるわけでしょうから、指を痛める可能性は十分にあるわ」
冷静にレティシアは考えうるデータを提示。空気を鋭く切り裂くように、淡々とした口ぶりである。それはベアトリスにも言われたことではあった。疲れた頭の中でその時の声が反響する。
艶のある長い赤褐色の髪を後ろに払いつつ、落ち着いて端的な見解をするレティシアの一言は、文句のつけようのないそれだった。
シルヴィも「だろだろ」と頭を大きく上下させて調子を合わせる。
レティシアとシルヴィは、ベルから言わせれば「正反対という言葉がこれほどまでに似合う友人はいない」、全てがかけ離れていた。髪の長さ、喋り方、好きな食べ物、理系と体育系など、挙げればキリがない。しかしそれを取り持つ中間、つまり自分がクッションとなり、うまいことお互いの個性を中和させて関係は成り立っている。
そのクッションが活動停止状態ではあるが、知らずのうちに磁石のように互いのスペースは埋まりつつあるらしく、少しずつベルも楽できるようになってきている。今はそれがベルにはありがたいようである。
「まぁ、あの店が気に入る気持ちもわかるが、とりあえず食え!」
今現在はランチタイムである。昼食に重きをおくこの国において、一旦家に帰り家族で昼食、もしくは生徒全員が食堂に集まって取るのが主流である。モンフェルナは後者であり、三人が教室に留まっている理由は、約一名が動かないからなのだ。それに関してベルはただ「申し訳ない」と謝るのみ。
よくぞ学校まで来れたものだ、とセンチ単位で体を動かすベルを見て無言で二人は顔を見合わせたのだった。
そこで、このまま餓死されても困るので、左頬から突っ伏して動かないベルの口に、学校に来る途中で買った朝食用の余った小さめのサンドイッチを、シルヴィは指で押し込む。強引だが、こうでもしないと食べそうにないからだ。
疲れから食欲はあるのか心配したが、紙を吸い込むプリンターのように器用に口の中に入れていくベルの様を、レティシアは頬杖をついて見守る。
「まったく、シルヴィ。やっぱりあなた変な店を紹介したんじゃないでしょうね? トライアスロンだってこんなに疲れないでしょう。まるで糸の切れた人形みたい」
ベルの見た目を模した、鋭いレティシアの例え。
「いーや、小さな花屋なんだけどよ、これがまた美味そうな花もおいてあってだな。お前も一度行ってみればわかるんじゃないか」
シルヴィがその座り方に似つかわしい、唇を突き出し、少々野暮ったい口調でレティシアに問う。これが素の彼女である。
「ええ、特にこれから冬にかけては苦行となるやもしれないわね。寒空の下で水に手を浸けるわけでしょうから、指を痛める可能性は十分にあるわ」
冷静にレティシアは考えうるデータを提示。空気を鋭く切り裂くように、淡々とした口ぶりである。それはベアトリスにも言われたことではあった。疲れた頭の中でその時の声が反響する。
艶のある長い赤褐色の髪を後ろに払いつつ、落ち着いて端的な見解をするレティシアの一言は、文句のつけようのないそれだった。
シルヴィも「だろだろ」と頭を大きく上下させて調子を合わせる。
レティシアとシルヴィは、ベルから言わせれば「正反対という言葉がこれほどまでに似合う友人はいない」、全てがかけ離れていた。髪の長さ、喋り方、好きな食べ物、理系と体育系など、挙げればキリがない。しかしそれを取り持つ中間、つまり自分がクッションとなり、うまいことお互いの個性を中和させて関係は成り立っている。
そのクッションが活動停止状態ではあるが、知らずのうちに磁石のように互いのスペースは埋まりつつあるらしく、少しずつベルも楽できるようになってきている。今はそれがベルにはありがたいようである。
「まぁ、あの店が気に入る気持ちもわかるが、とりあえず食え!」
今現在はランチタイムである。昼食に重きをおくこの国において、一旦家に帰り家族で昼食、もしくは生徒全員が食堂に集まって取るのが主流である。モンフェルナは後者であり、三人が教室に留まっている理由は、約一名が動かないからなのだ。それに関してベルはただ「申し訳ない」と謝るのみ。
よくぞ学校まで来れたものだ、とセンチ単位で体を動かすベルを見て無言で二人は顔を見合わせたのだった。
そこで、このまま餓死されても困るので、左頬から突っ伏して動かないベルの口に、学校に来る途中で買った朝食用の余った小さめのサンドイッチを、シルヴィは指で押し込む。強引だが、こうでもしないと食べそうにないからだ。
疲れから食欲はあるのか心配したが、紙を吸い込むプリンターのように器用に口の中に入れていくベルの様を、レティシアは頬杖をついて見守る。
「まったく、シルヴィ。やっぱりあなた変な店を紹介したんじゃないでしょうね? トライアスロンだってこんなに疲れないでしょう。まるで糸の切れた人形みたい」
ベルの見た目を模した、鋭いレティシアの例え。
「いーや、小さな花屋なんだけどよ、これがまた美味そうな花もおいてあってだな。お前も一度行ってみればわかるんじゃないか」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
義妹がいればそれだけでいいのでしょう?
新野乃花(大舟)
恋愛
ソリッド伯爵はミラというれっきとした婚約者を持っておきながら、妹であるセレーナにばかり気をかけていた。そのセレーナも兄が自分の事を溺愛しているということをよくわかっているため、ことあるごとに被害者面をしてミラの事を悪者にし、自分を悲劇のヒロインであると演出していた。そんなある日の事、伯爵はセレーナさえいてくれればなんでもいいという考えから、ミラの事を一方的に婚約破棄してしまう…。それこそが自らを滅ぼす第一歩になるとも知らず…。
ローリン・マイハニー!
鯨井イルカ
キャラ文芸
主人公マサヨシと壺から出てきた彼女のハートフル怪奇コメディ
下記の続編として執筆しています。
「君に★首ったけ!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/771412269/602178787
2018.10.16ジャンルをキャラ文芸に変更しました
2018.12.21完結いたしました
あなたは婚約者よりも幼馴染を愛するのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
エリック侯爵はソフィアとの婚約を築いておきながら、自信が溺愛する幼馴染であるエレナとの時間を優先していた。ある日、エリックはエレナと共謀する形でソフィアに対して嫌がらせを行い、婚約破棄をさせる流れを作り上げる。しかしその思惑は外れ、ソフィアはそのまま侯爵の前から姿を消してしまう。…婚約者を失踪させたということで、侯爵を見る周りの目は非常に厳しいものになっていき、最後には自分の行動の全てを後悔することになるのだった…。
女装する美少女?からエスケープ!
木mori
キャラ文芸
99代目閻魔大王の、をねゐさんから突如100代目候補として指名された日乃本都(みやこ)、男子高校生。何者かに呪いをかけられて巨乳女子高生になってしまった。男子へ復帰するには、犯人を探し出して呪いを解かせるか、閻魔大王になって、強大な魔力で呪い解除するしかない!都に男子復帰の未来はあるのか?
後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
『青』の作り手 失恋女子と見習い藍師
渡波みずき
キャラ文芸
イケメンと評判の同僚と交際していることを誇らしく思っていた千草は、その恋人に浮気されていたことを知り、傷心のなかで仕事を辞め、千草は故郷の徳島県上板町に帰る。
実家は、県内で五軒しかない藍師の家。藍師とは、藍染めのための天然染料である蒅を作る職人である。家業を手伝うつもりでいたが、都会からのIターンの若者が来るからと、断られてしまう。千草と同年代の三人の若者のうち、ふたりは前職の顧客だった。思いがけぬ再会に驚く千草だったが、そのうちのひとり、松葉とは、どうやら浅からぬ縁があることがわかってきて──。徳島県を舞台に、地域産業に携わろうとする青年たちの恋と葛藤を描く青春モノ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる