Sonora 【ソノラ】

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コン・フォーコ

26話

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 フローリストとしては先輩のシャルルは、学業の先輩であるベルよりも実年齢でいえば五つほど下だが、その年齢にしてはいくぶん低めの背丈、大きな眼鏡の下の小動物を思わせるつぶらな瞳、壊れ物を思わせる細い体のライン、その他諸々が重なり、さらに幼く見られる傾向にある。

 それを多少にもコンプレックスと感じており、少しでも大人に、最低でも年相応で見られるよう常に落ち着いた態度を心がけ、バランスを求め続けている。
 
 だが、その言葉通り背伸びした物腰が皮肉にも「大人に憧れるちっちゃな男の子」というのがここ数日でのベルの評価であり、お世辞にもプラスに作用しているとは言い難い。

「もふもふしてそうなところがなんとも……」

「? なんの話です?」

「いや、こっちの話。ところで水揚げの仕方は花の種類によって違うって言ってたけど、何種類くらいあるものなの?」

 シャープな輪郭を描く顎に小さな握りこぶしを当て、シャルルは皺の多い脳内部の記憶を引き出す。花に関する知識であれば、ある程度は詰まっている。その引き出しを一つ引いた。

「そうですね、一般的に一○個くらい知っておけばなんとかなりますが、全部ではわかりません。この今話してる間にも、新しい方法が開発されているかもしれませんし」

 逆に今度は、真似をしたわけではないが、ベルも無意識に同じ仕草をとる。

「基本的な部分から奥が深い、と」

 唇を尖らせて考え込むベルのその唇にドキリとしつつも「いいえ」と冷静さを即座に取り返し、シャルルは首を横に小さく振る。

「むしろ基本がすべて、と捉えてください。経験を積んだフローリストと、まだ始めたばかりのフローリストのやること・動作がほぼ同じでも結果が全く違ってくる。それは小さな積み重ねが積もって大きく見えるのです」

 素直に納得しつつ、ベルは空中に鍵盤を思い浮かべ、まだ傷を作っていない流体を思わせるしなやかな指を走らせた。八八の鍵盤がうっすらと彼女には見えている。

「ピアノなんかじゃ、やっぱプロとアマチュアは技術は一目、一聴瞭然なんだけどね。あ、ちなみに今のはラフマニノフの『楽興の時』の第二番ね」

 ふふん、と引っ込み思案なのかまだ成長する気配の胸を張り、勝ち誇るような笑みをベルは少年を見下ろしつつ浮かべる。姉のベアトリスならいざしらず、その弟はピアノはそれほど詳しくはない。質問・説明を受ける、の繰り返しで主導権を握られつつあった現状を、特に意味もなく打破しようとしたのだった。そのままさらに楽章を進める。

「むー……」

 その意図に気付いたのか、シャルルは頬を膨らませて抵抗した。しかし本人は気付いているのかいないのか、そういった振る舞いが幼さに拍車をかけてしまっている。それをベルはあえて言わずにいた。面白いから。
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