10 / 235
オーベルテューレ
10話
しおりを挟む
入り口から見て右奥には、ニスで艶やかに輝く茶褐色の木製の扉がある。相当な年季が入っており、店内で一番の年長者だと思われる。
左奥には黄色みがかった扉。シャルルはこの扉を開けて中へ入っていく。
ベルの眼差しはその小さな背中を追った。
「安心しろ、ノンアルコールのシードルだ。花に酒は悪いんでな」
不安が顔に出ていたベルに、ベアトリスは軽口を叩く。もちろん、彼女が気にしているのはその点ではないということを理解してのことだ。
ベルは迷っていた。元々は、ただ勧められて来ただけのはずだった。そして、知らず知らずのうちに店を見つけないように歩いていたのかもしれない。しかし、だったら断ればよかっただけのこと。それなのに、歩き回って探した。
自分の中の自分が、自分でわからなくなる。もし彼女の脳の中をスキャンして文章化する機械があれば、文字化けしているのではないだろうか。
「……一つ、訊いてもいいですか?」
「なんだ? 言ってみろ。聞くだけは聞いてやる」
先に歩を進めるベアトリスは足を止め、その小さな体は向けずに、顔だけを向けて発言を許す。
「シャルル君は……あたしがここを探していると知っていたんですか?」
喉を搾るような感覚でベルは言葉を音にする。必死さは音に乗る。
ニヤリ、と音もなくベアトリスは笑い、答えることにした。
「たぶん最初に会った時にな」
「どうして」
「それはだな」
懇願さが滲み出る声色を聞き、シャルルの入っていった黄色の扉を遠い目でベアトリスは見つめ、一瞬溜めた。
「——あいつが、フローリストだからだ」
左奥には黄色みがかった扉。シャルルはこの扉を開けて中へ入っていく。
ベルの眼差しはその小さな背中を追った。
「安心しろ、ノンアルコールのシードルだ。花に酒は悪いんでな」
不安が顔に出ていたベルに、ベアトリスは軽口を叩く。もちろん、彼女が気にしているのはその点ではないということを理解してのことだ。
ベルは迷っていた。元々は、ただ勧められて来ただけのはずだった。そして、知らず知らずのうちに店を見つけないように歩いていたのかもしれない。しかし、だったら断ればよかっただけのこと。それなのに、歩き回って探した。
自分の中の自分が、自分でわからなくなる。もし彼女の脳の中をスキャンして文章化する機械があれば、文字化けしているのではないだろうか。
「……一つ、訊いてもいいですか?」
「なんだ? 言ってみろ。聞くだけは聞いてやる」
先に歩を進めるベアトリスは足を止め、その小さな体は向けずに、顔だけを向けて発言を許す。
「シャルル君は……あたしがここを探していると知っていたんですか?」
喉を搾るような感覚でベルは言葉を音にする。必死さは音に乗る。
ニヤリ、と音もなくベアトリスは笑い、答えることにした。
「たぶん最初に会った時にな」
「どうして」
「それはだな」
懇願さが滲み出る声色を聞き、シャルルの入っていった黄色の扉を遠い目でベアトリスは見つめ、一瞬溜めた。
「——あいつが、フローリストだからだ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
千切れた心臓は扉を開く
綾坂キョウ
キャラ文芸
「貴様を迎えに来た」――幼い頃「神隠し」にあった女子高生・美邑の前に突然現れたのは、鬼面の男だった。「君は鬼になる。もう、決まっていることなんだよ」切なくも愛しい、あやかし現代ファンタジー。
ピアニストの転生〜コンクールで優勝した美人女子大生はおじいちゃんの転生体でした〜
花野りら
キャラ文芸
高校生ピアニストのミサオは、コンクールで美人女子大生ソフィアと出会う。
眠りながらラフマニノフを演奏する彼女は、なんと、おじいちゃんの転生体だった!
美しいピアノの旋律と幻想的なEDMがつむぎあった時、それぞれの人間ドラマが精巧なパズルのように組み合わさっていく。
ちょっぴりラブコメ、ほんのりシリアスなローファンタジー小説。
パスカルからの最後の宿題
尾方佐羽
歴史・時代
科学者、哲学者として有名なパスカルが人生の最後に取り組んだ大仕事は「パリの街に安価な乗合馬車」を走らせることだった。彼が最後の仕事に託した思いは何だったのか。親友のロアネーズ公爵は彼の思考のあとを追う。
アドヴェロスの英雄
青夜
キャラ文芸
『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の外伝です。
大好きなキャラなのですが、本編ではなかなか活躍を書けそうもなく、外伝を創りました。
本編の主人公「石神高虎」に協力する警察内の対妖魔特殊部隊「アドヴェロス」のトップハンター《神宮寺磯良》が主人公になります。
古の刀匠が究極の刀を打ち終え、その後に刀を持たずに「全てを《想う》だけで斬る」技を編み出した末裔です。
幼い頃に両親を殺され、ある人物の導きで関東のヤクザ一家に匿われました。
超絶の力を持ち、女性と間違えられるほどの「美貌」。
しかし、本人はいたって普通(?)の性格。
主人公にはその力故に様々な事件や人間模様に関わって行きます。
先のことはまだ分かりませんが、主人公の活躍を描いてみたいと思います。
どうか、宜しくお願い致します。
【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです
*
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』
あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした!
おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい?
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。
Opera MISSA AS A LOTUS RIVER TATSUO
Lotus碧い空☆碧い宇宙の旅人☆
ライト文芸
東京ドームの地下にあるコンサートホールの会場は、異世界へ繋がる世界だった。
そこでクラシックの指揮者と演奏家たち、そしてヴィジュアル系ロックバンドAS A LOTUS RIVER のメンバーのTATSUOとForestparkの織り成す音楽と、異世界の物語と真理と祈りとは。
鬼の心臓は闇夜に疼く
藤波璃久
キャラ文芸
闇夜を駆ける少年は、
永い時を生きていく…。
鬼を心臓に宿す小太郎。
人間の中の悪意を食べ、生きている。
そんな小太郎の元に、桃太郎の子孫が現れた。
彼は、先祖がせん滅しそこねた、生き残りの鬼を探しているという。
彼らと戦う中、自分の存在について、悩み苦しむ小太郎。
そんな小太郎に、子孫の青年が下した決断は…。
日本を舞台にしたファンタジーです。
鬼や妖怪の解釈について、作者独自の設定があります。
過去編と現在編で物語を進めて行きます。
※過去編には、カニバリズム的描写があるので、苦手な方はご注意下さい。
学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~
トベ・イツキ
キャラ文芸
三国志×学園群像劇!
平凡な少年・リュービは高校に入学する。
彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。
しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。
妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。
学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!
このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。
今後の予定
第一章 黄巾の乱編
第二章 反トータク連合編
第三章 群雄割拠編
第四章 カント決戦編
第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる