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マリー・アントワネット
47話
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「くれるの?」
自分が使うかは置いておいて、あまり見かけない品だ。しかもなかなかレアな布地らしい。貰えるのであれば、当然ジェイドはありがたい。
しかし、眉を寄せたオードは「はぁ?」と、わかりやすく機嫌を悪くした。
「んなわけないでしょ、買い取りよ。作ってこいって言ったのはそっちでしょ。で? どう?」
「さっきも言ったが、やはり餅は餅屋だね。自分でなんとかしようと思わなくてよかった」
正直なジェイドの感想。最悪、自分で挑戦することも視野にあったが、まぁ目も当てられないものになっていたかもしれない。それに、軽々しく芸術品を作れるとも思っていない。お金で解決できるなら、ジェイドは助かる。
「そいつはどうも。で、値段はこれ」
と、オードは呆れつつ領収書を渡す。その金額には、材料費、人件費はもちろん、迷惑料や深夜サービス代も含んで、追加しておいた。
その金額を見て、ジェイドは一旦、深呼吸をした。
「……そんなにするの?」
「当たり前でしょ。オーダーメイドで、貴重な布地使ってんだから。インドよ、インド。このミラーワークには、魔除けの意味も込められてんの。安いくらいよ」
幾何学模様にはミラーワークという名前がついているらしい。浅い考えのジェイドを、プライドを持って作成したオードは一蹴した。
「指定してなかったとはいえ、試作品なんだからもっと安いやつでも……」
と、唇を尖らせてジェイドがごねる。お金を出す手が震える。
しかしオードは断固として拒否する。
「あたしは妥協しないの。お金はちゃんともらうし、仕事はしっかりする。それが職人。値段相応の仕事はしてるはずよ。まいどあり」
そう言って、オードはお金を受け取り、『それ』をジェイドに手渡した。手渡したというよりも、託すと言ったほうが近い。もしかしたら、この子に付き添うことが、この先の世界に繋がるかもしれない。この子はこの子であたしを利用しようとしている。なら、あたしもそうさせてもらう。
はっきりとオードに言い切られて、ジェイドも「たしかに」と、自分の考えを改めた。職に誇りを持って、一切妥協しないこと。勉強になる。
「気に入った。やっぱりオードに任せて正解だった」
職人に必要なのは覚悟と意志だと、ジェイドは考えている。同じ年で両方持ち合わせているオードは、近くにいるお手本。同時に、負けたくないというライバル心も与えてくれた。
「そんで? あたしはなにをどうしたらいいわけ?」
試作品の反応は上々。要求されているものは問題ないとして、オードはまとめにかかる。自身に出来ることだけ、全力を尽くす。
「とりあえずひとつ、さっき言った布地で作ってほしい。もしも許可がおりたら……忙しくなる、かもね」
可能性は低いけど、という言葉を飲み込んだジェイドは、あとは自分がやるだけ。準備はできている。どうも明日の夜、オーナーがゴンブスト通り店にやってくるらしい。シフトには入っていないが、ぜひ見てもらいたい。そしてダメ出しなんかもらえたら最高。でもやっぱり、賞賛されたらもっといい。
楽しそうな算段を立てているジェイドを横目に、オードは冷静に現状を把握した。
「しかし、驚くだろうね。老舗ショコラトリーの新作が、まさか『ショコラじゃない』なんて」
自分が使うかは置いておいて、あまり見かけない品だ。しかもなかなかレアな布地らしい。貰えるのであれば、当然ジェイドはありがたい。
しかし、眉を寄せたオードは「はぁ?」と、わかりやすく機嫌を悪くした。
「んなわけないでしょ、買い取りよ。作ってこいって言ったのはそっちでしょ。で? どう?」
「さっきも言ったが、やはり餅は餅屋だね。自分でなんとかしようと思わなくてよかった」
正直なジェイドの感想。最悪、自分で挑戦することも視野にあったが、まぁ目も当てられないものになっていたかもしれない。それに、軽々しく芸術品を作れるとも思っていない。お金で解決できるなら、ジェイドは助かる。
「そいつはどうも。で、値段はこれ」
と、オードは呆れつつ領収書を渡す。その金額には、材料費、人件費はもちろん、迷惑料や深夜サービス代も含んで、追加しておいた。
その金額を見て、ジェイドは一旦、深呼吸をした。
「……そんなにするの?」
「当たり前でしょ。オーダーメイドで、貴重な布地使ってんだから。インドよ、インド。このミラーワークには、魔除けの意味も込められてんの。安いくらいよ」
幾何学模様にはミラーワークという名前がついているらしい。浅い考えのジェイドを、プライドを持って作成したオードは一蹴した。
「指定してなかったとはいえ、試作品なんだからもっと安いやつでも……」
と、唇を尖らせてジェイドがごねる。お金を出す手が震える。
しかしオードは断固として拒否する。
「あたしは妥協しないの。お金はちゃんともらうし、仕事はしっかりする。それが職人。値段相応の仕事はしてるはずよ。まいどあり」
そう言って、オードはお金を受け取り、『それ』をジェイドに手渡した。手渡したというよりも、託すと言ったほうが近い。もしかしたら、この子に付き添うことが、この先の世界に繋がるかもしれない。この子はこの子であたしを利用しようとしている。なら、あたしもそうさせてもらう。
はっきりとオードに言い切られて、ジェイドも「たしかに」と、自分の考えを改めた。職に誇りを持って、一切妥協しないこと。勉強になる。
「気に入った。やっぱりオードに任せて正解だった」
職人に必要なのは覚悟と意志だと、ジェイドは考えている。同じ年で両方持ち合わせているオードは、近くにいるお手本。同時に、負けたくないというライバル心も与えてくれた。
「そんで? あたしはなにをどうしたらいいわけ?」
試作品の反応は上々。要求されているものは問題ないとして、オードはまとめにかかる。自身に出来ることだけ、全力を尽くす。
「とりあえずひとつ、さっき言った布地で作ってほしい。もしも許可がおりたら……忙しくなる、かもね」
可能性は低いけど、という言葉を飲み込んだジェイドは、あとは自分がやるだけ。準備はできている。どうも明日の夜、オーナーがゴンブスト通り店にやってくるらしい。シフトには入っていないが、ぜひ見てもらいたい。そしてダメ出しなんかもらえたら最高。でもやっぱり、賞賛されたらもっといい。
楽しそうな算段を立てているジェイドを横目に、オードは冷静に現状を把握した。
「しかし、驚くだろうね。老舗ショコラトリーの新作が、まさか『ショコラじゃない』なんて」
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