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マリー・アントワネット
45話
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「みりん……」
思い返す。つまり、ただただ良いものを作り上げるだけじゃなく、常に新しいことを続ける探究心。と、オードは捉えた。いい意味で。吉と出るか凶と出るかはわからないが、一番避けなくてはならないものは『停滞』。
「そんなポイポイ思いついてたら、ナポレオンの時代に思いついてるってねぇ」
どこか、スッキリとした表情で、愚痴をこぼした。
それと同じタイミングで、扉が勢いよく開いた。主役が来た。ヒーローは遅れて来ると思っているヤツ。
「遅れてすまないね。いや、オードが早すぎただけかな?」
ほら、まだ一三時にはなっていないからね、と時間を確認してジェイドは自身を肯定した。足早に階段を駆け下り、曇りがちな表情をしたオードの前に仁王立ちする。
「……これ、WXYでは販売を許可してるの?」
そもそもだ。どれだけいいものを作ろうと、売ることが出来なければこの話は無かったことになる。オードは知り合って一日、このジェイド・カスターニュは考え無しに動くことが予想された。案の定、
「聞いてない。『春の新作』ということしか聞いてないからね。多少の誤解はあっても仕方ないだろう」
というジェイドの発言から、行き当たりばったりであることが確認できた。
とはいえ、オードも憤慨はしない。自分に出来ることはもう終わった。なにかあっても共犯じゃない、被害者だ。
「白々しい。どうなってもあたしは知らないからね。偉い人に見せるんでしょ? あんたのとこにもM.O.Fはいたわよね」
WXYのオーナー、ロシュディ・チェカルディ。忙しく世界を飛び回り、数えるほどしかいないショコラ界のM.O.F。海外に複数の支店を持ち、その名前はオードも知っている。店の春の新作ともなると、オーナーであれば審査するだろう。そもそも、支店の審査で落とされる、とかあるかもだけど。
「あの方はそうだね。目標であり、尊敬してるよ。会ったことないけど」
「堅物だったら怒られるかもね。怒られるだけならまだしも、あたしには被害がないようにしてよ」
ないとは思うが、M.O.Fに睨まれたらどうなるのだろうか。ウチの店くらいなら潰せてしまうんじゃなかろうか、いや、そんな狭い器ではないだろう。マイナスなことばかり思いつくが、まぁ、なるようになるかと楽観する。
「もちろん。受け入れてくれたら名前とお店は伝える。その先のことはどうなるかわからないけど」
技術として劣る自分が勝るには、奇をてらうしかない。負けて元々。ジェイドには失うものはない。いや、若干の信頼が失われるかも。
決意が決まったところで、オードは気になっていることを、ジェイドに聞いてみる。少しモヤモヤしている。
「……オランジェットにさ、『みりん』を使ったことってある?」
先ほどニコルから聞いたこと。こいつは知っているのだろうか。知らなかったら、なんか嬉しい。ショコラについて上から話せる。
「みりん? 調味料の? ないね。ただ、たしかワールドチョコレートマスターズで、砂糖や人工甘味料を抑えたものというお題があってね。そこでみりんを使っていた人がいたことは覚えているね。普通は思いつかない。脱帽だよ」
当然といえば当然なのか、ジェイドは知っていた。少し話題になった技術だ。照りもより映えたり、利点も結構あるという。このあたりは好みである。WXYでは使うことはないというが、ありっちゃありだね、と感心している。
「ふーん……」
ショコラバカめ。オードはなんか少し悔しい。
思い返す。つまり、ただただ良いものを作り上げるだけじゃなく、常に新しいことを続ける探究心。と、オードは捉えた。いい意味で。吉と出るか凶と出るかはわからないが、一番避けなくてはならないものは『停滞』。
「そんなポイポイ思いついてたら、ナポレオンの時代に思いついてるってねぇ」
どこか、スッキリとした表情で、愚痴をこぼした。
それと同じタイミングで、扉が勢いよく開いた。主役が来た。ヒーローは遅れて来ると思っているヤツ。
「遅れてすまないね。いや、オードが早すぎただけかな?」
ほら、まだ一三時にはなっていないからね、と時間を確認してジェイドは自身を肯定した。足早に階段を駆け下り、曇りがちな表情をしたオードの前に仁王立ちする。
「……これ、WXYでは販売を許可してるの?」
そもそもだ。どれだけいいものを作ろうと、売ることが出来なければこの話は無かったことになる。オードは知り合って一日、このジェイド・カスターニュは考え無しに動くことが予想された。案の定、
「聞いてない。『春の新作』ということしか聞いてないからね。多少の誤解はあっても仕方ないだろう」
というジェイドの発言から、行き当たりばったりであることが確認できた。
とはいえ、オードも憤慨はしない。自分に出来ることはもう終わった。なにかあっても共犯じゃない、被害者だ。
「白々しい。どうなってもあたしは知らないからね。偉い人に見せるんでしょ? あんたのとこにもM.O.Fはいたわよね」
WXYのオーナー、ロシュディ・チェカルディ。忙しく世界を飛び回り、数えるほどしかいないショコラ界のM.O.F。海外に複数の支店を持ち、その名前はオードも知っている。店の春の新作ともなると、オーナーであれば審査するだろう。そもそも、支店の審査で落とされる、とかあるかもだけど。
「あの方はそうだね。目標であり、尊敬してるよ。会ったことないけど」
「堅物だったら怒られるかもね。怒られるだけならまだしも、あたしには被害がないようにしてよ」
ないとは思うが、M.O.Fに睨まれたらどうなるのだろうか。ウチの店くらいなら潰せてしまうんじゃなかろうか、いや、そんな狭い器ではないだろう。マイナスなことばかり思いつくが、まぁ、なるようになるかと楽観する。
「もちろん。受け入れてくれたら名前とお店は伝える。その先のことはどうなるかわからないけど」
技術として劣る自分が勝るには、奇をてらうしかない。負けて元々。ジェイドには失うものはない。いや、若干の信頼が失われるかも。
決意が決まったところで、オードは気になっていることを、ジェイドに聞いてみる。少しモヤモヤしている。
「……オランジェットにさ、『みりん』を使ったことってある?」
先ほどニコルから聞いたこと。こいつは知っているのだろうか。知らなかったら、なんか嬉しい。ショコラについて上から話せる。
「みりん? 調味料の? ないね。ただ、たしかワールドチョコレートマスターズで、砂糖や人工甘味料を抑えたものというお題があってね。そこでみりんを使っていた人がいたことは覚えているね。普通は思いつかない。脱帽だよ」
当然といえば当然なのか、ジェイドは知っていた。少し話題になった技術だ。照りもより映えたり、利点も結構あるという。このあたりは好みである。WXYでは使うことはないというが、ありっちゃありだね、と感心している。
「ふーん……」
ショコラバカめ。オードはなんか少し悔しい。
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