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マリー・アントワネット
42話
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まぁそんなに興味はなかったので、さらりとオードは流した。そもそもただ自分は待ってるだけの身。そこにいた人物が誰かなんてどうでもいい。
「ん?」
女性がオードの方を凝視する。そして舞台を降り、眉を顰めて近づく。なにか気に触るようなことをオードがしたのだろうか。しかし、その視線は手に持っていた箱に集中していた。顔を接近させて中身を探る。
「……美味しそうなもの持ってんね。オランジェットかな? 食べていい?」
ぱっと明るい笑顔になり、女性は戸惑うオードに確認を取る。彼女のセンサーがなにかに反応したのだろうか。たしかに昨日、ジェイドからもらったオランジェットは、カルトナージュと一緒にこの箱の中に入っている。どういう感覚だ。
「なんでわかるの。でもホール内は飲食禁止。ルールは守りましょ」
「ひと口でいくから。大丈夫大丈夫」
と、勝手に箱を解体すると、中からカルトナージュが出てきた。急須のような形だが、持ち手はない。そして、蓋がついている。ワインレッドのような色をベースとして、四角や渦など、幾何学模様が散りばめられた布が全体に貼りつけられ、見た目に可愛い。そしてエキゾチック。
だが、彼女にとってはそれよりも中身のオランジェットが目的。一瞬、見た目に目を奪われたが、蓋を開けて中身のオランジェットを取り出し、一気に食す。たしかに床を汚してはいないが、マナー違反だ。
「うまッ! 才能あるよ、ショコラティエール目指してる?」
手放しで褒めちぎる彼女。そして丁寧に箱にしまい、オードに返す。うんうん、と頷いて満足したようだ。
若干、褒められたのをつまらなそうに聞いていたオードだが、種明かしをする。
「残念。それはあたしじゃない。本人に言ってあげれば喜ぶよ、たぶん」
視線を外し、唇を尖らせて不満を表す。なんであいつへの絶賛をあたしが聞いてやらにゃならんのだ。という意志の表れ。
あれ? そうなの? と、驚きつつも、女性は唐突に話題を変えてきた。
「なにか悩んでんの?」
あまりにも急だったので、オードも目を見開いて聞き返す。
「なんでそう思う? てか、悩みのない人間ている?」
率直な意見。なにかしら、人は悩みくらいあるだろう。また苦手なタイプの人間かも、とオードは自分の運のなさを呪った。今週の水瓶座はきっと、社会生活に難あり。彼女はきっと獅子座。なんか暑苦しいから。
「たしかに。でも、こんなとこにわざわざランチの時間に来るなんて、悩みでもあるからじゃない?」
彼女にとって、オードは悩みがあって、静かな場所を求めて来たという位置付けに勝手になっている。というか、暇で話し相手が欲しいだけのような気がしないでもない。
すぐさまオードは否定した。
「いや、単純にここで待ち合わせてるだけ。そっちはなにかあんの? なさそうだけど」
きっとないだろう。寝れば忘れそうなタイプだ。失礼だが、オードの中で彼女の性格がなんとなく構築できた。
「あるよ。私はなにもできないからね。見ているだけしかできないし、見ることすらできていない。それが悩み」
あっけらかんと女性は悩みを明かすが、オードには全く意味がわからない。見るしかできない? 見ることもできない?
(なんの話……?)
「ん?」
女性がオードの方を凝視する。そして舞台を降り、眉を顰めて近づく。なにか気に触るようなことをオードがしたのだろうか。しかし、その視線は手に持っていた箱に集中していた。顔を接近させて中身を探る。
「……美味しそうなもの持ってんね。オランジェットかな? 食べていい?」
ぱっと明るい笑顔になり、女性は戸惑うオードに確認を取る。彼女のセンサーがなにかに反応したのだろうか。たしかに昨日、ジェイドからもらったオランジェットは、カルトナージュと一緒にこの箱の中に入っている。どういう感覚だ。
「なんでわかるの。でもホール内は飲食禁止。ルールは守りましょ」
「ひと口でいくから。大丈夫大丈夫」
と、勝手に箱を解体すると、中からカルトナージュが出てきた。急須のような形だが、持ち手はない。そして、蓋がついている。ワインレッドのような色をベースとして、四角や渦など、幾何学模様が散りばめられた布が全体に貼りつけられ、見た目に可愛い。そしてエキゾチック。
だが、彼女にとってはそれよりも中身のオランジェットが目的。一瞬、見た目に目を奪われたが、蓋を開けて中身のオランジェットを取り出し、一気に食す。たしかに床を汚してはいないが、マナー違反だ。
「うまッ! 才能あるよ、ショコラティエール目指してる?」
手放しで褒めちぎる彼女。そして丁寧に箱にしまい、オードに返す。うんうん、と頷いて満足したようだ。
若干、褒められたのをつまらなそうに聞いていたオードだが、種明かしをする。
「残念。それはあたしじゃない。本人に言ってあげれば喜ぶよ、たぶん」
視線を外し、唇を尖らせて不満を表す。なんであいつへの絶賛をあたしが聞いてやらにゃならんのだ。という意志の表れ。
あれ? そうなの? と、驚きつつも、女性は唐突に話題を変えてきた。
「なにか悩んでんの?」
あまりにも急だったので、オードも目を見開いて聞き返す。
「なんでそう思う? てか、悩みのない人間ている?」
率直な意見。なにかしら、人は悩みくらいあるだろう。また苦手なタイプの人間かも、とオードは自分の運のなさを呪った。今週の水瓶座はきっと、社会生活に難あり。彼女はきっと獅子座。なんか暑苦しいから。
「たしかに。でも、こんなとこにわざわざランチの時間に来るなんて、悩みでもあるからじゃない?」
彼女にとって、オードは悩みがあって、静かな場所を求めて来たという位置付けに勝手になっている。というか、暇で話し相手が欲しいだけのような気がしないでもない。
すぐさまオードは否定した。
「いや、単純にここで待ち合わせてるだけ。そっちはなにかあんの? なさそうだけど」
きっとないだろう。寝れば忘れそうなタイプだ。失礼だが、オードの中で彼女の性格がなんとなく構築できた。
「あるよ。私はなにもできないからね。見ているだけしかできないし、見ることすらできていない。それが悩み」
あっけらかんと女性は悩みを明かすが、オードには全く意味がわからない。見るしかできない? 見ることもできない?
(なんの話……?)
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