C × C 【セ・ドゥー】

文字の大きさ
上 下
41 / 52
マリー・アントワネット

41話

しおりを挟む
「……いい天気だなー……」

 翌日。

 中央には人工大理石を使った噴水が立ち上り、その周りには等間隔で八つの長い木製ベンチが取り囲む中庭にて、オードは座りながら空を見上げた。石畳にはゴミひとつなく、雇われた清掃業者が今日もしっかりと仕事をこなしている。そしてその周りには大小様々な花が植えられており、秋の優雅なひとときを今日も演出している。

 天気は快晴。間抜けなほどに青い空。こんな日は、日の当たらないところでカルトナージュの新作に取り掛かりたい。が、一三時から約束をしてしまった。あまり乗り気ではないが、職人たるもの、引き受けたのなら最後まで。

「時間まではまだあるし、どうするかね……」

 初めての、自分を名指しでの指名。本来なら嬉しいことのはずなのだが、指名してきた人間が気に入らない。夜遅くに自分の家まで来て、食事を取り、団欒し、あまつさえ結局泊まっていったらしい。自分が起きた時にはいなかったので、始発かそれに近い時間の地下鉄で帰ったのだろう。見事に振り回されている。

「ちょっと早いけど、移動するか……」

 指定された場所は音楽科のホール。時間は一三時。持ち物は自作のカルトナージュ。歩いて五分程度の距離なのだが、気が乗らず、倍の約一〇分かけて到着。コンクリート打ちっぱなしの外観。入るのは初めてだ。

 フラッパーゲートを越え、ホールの扉を開けようとしたところ、横に案内図が貼り出してあるのだが、どうやらここは大ホールで、小ホールもあるらしい。どちらか聞いていなかった。というか、初めてだから二つあるなんて知らない。

「どっちよ……それくらい言っときなさいよ……!」

 もう面倒なので、開きかけた大ホールにそのまま入る。違ったら違ったで寝て待ってよう。すり鉢状のホールの真ん中の舞台上に、遠目でもわかるほど高級そうなピアノ。そして、ひとりその傍に立っている。弾いたりしているわけではないが、何をしているのだろうか。

(人、いるじゃん。てか、なんでここに指定したんだって。こうなることくらい、考えられるだろっつの)

 しかし、別に悪いことをしているわけではない。適当なところに座って待ってよう。一番近場の、一階最上段席。舞台の上の人が何をやっているのか、観察でもしながら待とう。しかし。

「ん? 誰ー? 音楽科の人? ここ使うー?」

 その人物からオードは声をかけられた。どうやらバレてしまったらしい。少しだけガッカリ。ひっそりと見守っていたかった。返さないのも気まずいので、適当に。

「あー、いや、こっちこそごめん! 違う、邪魔しちゃったかな! 時間があったから、寄ってみただけだから」

 一応、自分だけ座って楽しているのも申し訳ないので、立ち上がって階段を降りながら近づく。怒っているわけではなさそうだ。とりあえずよかった。

 普段の声量で届くくらいの距離になると、舞台上の彼女は微笑した。

「一緒だ。私も音楽科じゃない。さらに言えば——」

 と、言いかけたところで口をつぐんだ。

「?」

 さらに言えば、なんだろう? オードは彼女の次の句を待つ。が。

「秘密」

「なんだそれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

えふえむ三人娘の百合SS

えふえむ
キャラ文芸
えふえむ三人娘の百合SS小説です。 ボブカット:アンナ(杏奈)ちゃん 三つ編み:チエ(千絵)ちゃん ポニテ:サキ(沙希)ちゃん

Réglage 【レグラージュ】

キャラ文芸
フランスのパリ3区。 ピアノ専門店「アトリエ・ルピアノ」に所属する少女サロメ・トトゥ。 職業はピアノの調律師。性格はワガママ。 あらゆるピアノを蘇らせる、始動の調律。

Sonora 【ソノラ】

キャラ文芸
フランスのパリ8区。 凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。 ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。 そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。 心を癒す、胎動の始まり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

Parfumésie 【パルフュメジー】

キャラ文芸
フランス、パリの12区。 ヴァンセンヌの森にて、ひとり佇む少女は考える。 憧れの調香師、ギャスパー・タルマに憧れてパリまでやってきたが、思ってもいない形で彼と接点を持つことになったこと。 そして、特技のヴァイオリンを生かした新たなる香りの創造。 今、音と香りの物語、その幕が上がる。

あやかし狐の京都裏町案内人

狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...