C × C 【セ・ドゥー】

文字の大きさ
上 下
28 / 41
マリー・アントワネット

28話

しおりを挟む
「お土産……ちょっと待って、なんか出てきそう」

「それはなにより」

 だが、女性は言葉で伝えられるのはここまで。これ以上は自分の口からでは、彼女にできることはなにもないと感じた。ならば、自分はピアニスト。こうする。

 脳をフルに回転させて糸口をジェイドは探っていたが、ふとその脳に濃厚なカカオをかけられたような、甘く穏やかで、それでいて幻想的な旋律が入り込んでくる。ふと顔を上げると、女性がピアノを弾いていた。

「……なんだっけ、この曲。聴いたことある気がする」

 たしかロシア系だった気がする。ラフマニノフじゃなくて、スクリャービンじゃなくて。

「チャイコフスキーの『金平糖の踊り』。お菓子のこと考えてるみたいだから、なんとなくこの曲」

 と、気を利かせて女性はお菓子の曲を奏でてくれていた。なにか閃けばいいんだけど。そう願いを込めて。

「金平糖……?」

 三つ目の歯車が噛み合う。曲調ではなく、ジェイドが注目したのは、その曲名。そして、ハッとなにかに気づき、手を大きく叩いた。

「……! 金平糖! そうだ、金平糖はたしか、日本では……!」

 と、再度俯いて思考し、何度も頷く。

 それを横目で見て、女性は安堵した。金平糖でなにが気づいたのかわからないけど、とりあえずお役に立てたようだ。

「ありがとう! わかったかもしれない! それじゃ! 練習頑張って!」

 と、急いで舞台から降り、出入り口まで興奮した表情で階段を上る。が、忘れ物に気づき、また舞台下まで降りきて、大きな声で呼びかけた。

「私はジェイド! ジェイド・カスターニュ! そっちは!?」

 自己紹介をしていなかった。名前を呼び合うこともなかったので、そのまま会話が成立していたが、恩人の名前は覚えておきたい。

 イスから立ち上がり、女性も自己紹介した。

「ヴィジニー・ダルヴィー。出来上がったら一個もらえたりする? それでチャラね」

 どんなものになるのか気になる。なにやら私のおかげなところもあるみたいなので、そのくらいの権利はあるんじゃないかしら? と提案してみた。

 笑顔でジェイドは応じる。

「当然! あ、そうだ!」

 結局、またジェイドは舞台まで上がってきた。往復して、少し息が切れている。たまには卓球以外にも定期的に運動しよう、と決めた。そして、カバンから二つ、オランジェットとオレンジピールのショコラ入りの袋を渡す。
しおりを挟む

処理中です...