C × C 【セ・ドゥー】

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マリー・アントワネット

25話

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 翌日、木曜日昼間。野外。石畳の上。

「うーん」

 ひとつ、ジェイドはオランジェットを口にする。食べながら歩くのは行儀がいいとは言えないが、誰も見ていない。

「うーん」

 もうひとつ、口に入れる。味はあまり頭に入ってこない。美味い、とは思うけど、少し慣れたかもしれない。

「ボンボン、プラリネ、ガナッシュ、パンデピス、ヌガティーヌ、ギモーブ……他にも種類は色々あるけど」 

 そうそう、新しいショコラが出てくるものではない。既存のものに、季節やテーマのプラスアルファの『なにか』をして、新作として送り出す。クリスマスやハロウィンなどはわかりやすいが、フランスそのものとなると、ありすぎて逆に絞れない。

「スペキュロス……はベルギーだし、フランス……フランスねぇ」

 新作を考える際、みんなはどのように考えるのか、参考に聞いてみたが、絵に描く人もいれば、ひたすら色んな店を食べ歩く人もいる。初めてのジェイドには、自分に合った方法が見つからないでいた。どうするべきか。そして。

「……またここに来ちゃったか」

 考え事をしながら風任せに歩いていると、コンクリート打ちっぱなしの外観の建物が見えてくる。つい先日も来た。音楽科のホール。近くまで寄り、数秒見上げる。

「ま、いっか」

 静かな中で考えれば、もしかしたらなにか浮かぶかもしれない。誰か練習していたら、その音楽からヒントがもらえるかもしれない。なにも行動しないよりかは、メリットがある。誰か話だけでもしたい。ヒントをくれ。

 フラッパーゲートを通過し、扉を開ける。最高級ピアノのための温度と湿度管理が行き届いた空間。さぁ、今日はどんなことが起きる? 期待しながら中央の舞台の上を見ると、誰かいる。女生徒だ。練習中か。どうしよう、声をかけるべきか。というか、この曲は知っている。ブラームス『インテルメッツォ』。温かく、包み込まれるような間奏曲。

 ジェイドは音を立てないように、静かに近くに座席に座る。目を閉じて、一音も漏らさないように拾い集める。優しい。まるでショコラテリーヌのような、そんな音。弾き終わったところで、気づかれてるかもしれないので拍手してみる。

 すると、気づいていたようで、手を上げて女性は返す。

 遠くで会話するのも申し訳ないので、ジェイドはすり鉢状のホールを中心まで降りていく。先日とこれも同じだ。

「申し訳ない。気にしないで練習しててくれていいから、ここにいてもいいかな?」

 楽譜を閉じながら女性は応じた。

「問題ないわ。音楽科の人……じゃなさそうね。最近は……」

 と、女性は吃りながら、言葉を飲み込んだ。怒ってはいないようだ。むしろ少し笑みを浮かべてさえいる。

 最近なにかあったんだろうか、とジェイドは疑問を持った。

「? いや、違う。けど、ここの静けさが好きなんだよね。集中できなかったら出ていくから、その時は言ってくれてかまわない。すまないね」

 勝手に入ってきた身。必要とあらば去るのは当然。できればちょっといたいけど、とジェイドは断りを入れた。

「その程度で乱れる集中なら、たいした腕じゃないってこと」

 凛とした仕草で女性は次の楽譜を開く。自分に厳しくするタイプようだ。

 その姿勢を目の当たりにし、

「すごい自信」
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