C × C 【セ・ドゥー】

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マリー・アントワネット

10話

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ジェイドも頭では理解しているのだが、実際に込めることができているのか、わからずにいる。

「言葉、ですか。まだそこには自分は踏み込めてないですね」

 込めていても、伝わるのだろうか。まだ見習いという称号が、なかなか自信を持たせてくれない。

「気の持ちようだよ。努力は気づかれないように。ショコラティエは夢の世界みたいなところがあるからね。それを崩しちゃダメ。一粒のショコラからメッセージを届けるように」

「そう考えると、一粒も気が抜けませんね。もしかしたら、それだけしか食べないかもしれませんし、その一粒でWXYの価値がその人の中で決まってしまう」

 油断が一番怖い。失敗はいい。だが、慣れてきたからといって、ジェイドは適当になってしまう瞬間が今後、生まれてきてしまうのではないか。その油断が怖いのだ。

 その自分に厳しいジェイドの姿勢を鑑み、アメリはひとつの提案をした。

「……次は、エクレールショコラとか作ってみようか」

 アメリは、ジェイドの真面目な性格を買っている。少しずつではあるが、いつかは店を任せられるような人間にしたいと考えている。自身も、製菓学校を卒業し、就職してからも最初は接客から入った。だが絶対に製菓学校で座学は学ぶべき、とは考えていない。可能であれば、このまま続けて就職してくれたら、と淡い期待はしている。まぁ、彼女の生き方を尊重したいけども。

「いいんですか? でも、お時間をとらせてしまって……」

「私らが楽になるからね。お互いにメリットしかないでしょ。まぁ美味しくできたら試食用としてだけど、少しずつステップアップしていってもらえれば」

 たしかに、作れる者がひとりでも増えれば、そのぶん他の者の負担が減り、そしてジェイドは経験値を積むことができる。お店にとっていいことづくめだ。この先、ジェイドがショコラティエールになるのかはこの際置いておいて、やる気がある者は積極的に貢献してもらいたい。

「ありがとうございます」

 その心遣いに感謝し、ジェイドは内心でガッツポーズする。新しいショコラの勉強ができるのは嬉しいし、楽しみだ。

(なにもかも順調。先輩もいい人。老舗ショコラトリーでお客様のための試食用まで作らせてもらえる。でもなんだろう、このままでは、なにか足りない気がする)

 そんな漠然とした充実感と、冷え切った感情を抱きながら、ジェイドは目を閉じた。
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