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Nc3
124話
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だが、ルールの全てを決めた後ろめたさもあり、ジルフィアも同様に譲る。
「公平を期すために、先手後手はどちらでも。実は片方は無害でした、なんて疑いがないようにね。どうぞ」
二色のカプセルをシシーに選ばせる。自前の毒薬。なにかしら仕掛けている、と思われるのは明白。ならば選んでもらったほうがいい。自分もどちらでもいい。
その対応。全てを疑い、そしてシシーは決断する。
「……どちらでもいいが、なら先手をもらうか」
白を選ぶ。同じ色のキングを受け取り、目指すは相手の黒いキング。チェックメイトをかけ、そしてそれを食う。だが、なにか見落としている気がする。なぜ三〇秒かける? なぜ一分以内? 他にはなにかないか? そんな素振りは見せないが、白鳥が水面下では必死にもがいているように、脳内で考えを張り巡らせる。
「オーケー。毒を飲んでませんでした、という疑いもないように、お互いに飲ませ合いましょう。イカサマはなしで」
とことん、タネも仕掛けもないことをアピールするジルフィア。逆に不自然なほど、全てを曝け出そうとする。
了承したシシーはまず、黒いカプセルをジルフィアの口元に持っていく。なにもおかしいところはない。飲まずに隠そう、というのはできないはず。最後まで注意深く見つめる。が。
「……おい」
その白く細い指先に、ジルフィアは舌を絡める。ディープに、音を立てて、耳から刺激を与える。ひと通り舐め終わったら、ゴクン、とカプセルを飲み込んだ。
「あぁ、ごめんなさい。ついね。汚してしまって申し訳ない。あぁ、あまりに甘美な味だ」
指先から熟成されたワインでも滲み出しているかのよう。反芻してもう一回楽しむ。あぁ、絶頂が込み上げてくる。
「……」
なんとなく、自分の弱いところを披露したことを、シシーは後悔しだした。まずいヤツに見せたな、と。それよりもチェスだ。まず基本から。◇ポーンe4。を指そうとしたら。
「あぁ、そうだ。この勝負を見届けてもらいたい人がいまして。来てもらっています。いいですよね?」
忘れてた、と命のかかる勝負だというのに、気の抜けた雰囲気を醸し出してジルフィアが同意を得る。
「見届ける?」
相手のことを掴みきれないシシーだが、肯定も否定もせずに、その後は押し黙った。ここまできたらもうなんでもいい。どうせ自分のことを聞いている人物だろう。学院の人物かもしれないが、隠す必要もない。
数秒後、シシーの背後にひとりの少女が立ちすくむ。
「……本当だったんだ。まさか優等生のあんたが、こんなことしてるなんてね」
「……アリカ・ラットヴァインさん、だね。どうしてここに?」
ここ最近、何度か話しかけられたことを、すでに臨戦態勢のシシーは思い出す。なるほど、ということはこの『毒』を作製したのは。彼女。
「公平を期すために、先手後手はどちらでも。実は片方は無害でした、なんて疑いがないようにね。どうぞ」
二色のカプセルをシシーに選ばせる。自前の毒薬。なにかしら仕掛けている、と思われるのは明白。ならば選んでもらったほうがいい。自分もどちらでもいい。
その対応。全てを疑い、そしてシシーは決断する。
「……どちらでもいいが、なら先手をもらうか」
白を選ぶ。同じ色のキングを受け取り、目指すは相手の黒いキング。チェックメイトをかけ、そしてそれを食う。だが、なにか見落としている気がする。なぜ三〇秒かける? なぜ一分以内? 他にはなにかないか? そんな素振りは見せないが、白鳥が水面下では必死にもがいているように、脳内で考えを張り巡らせる。
「オーケー。毒を飲んでませんでした、という疑いもないように、お互いに飲ませ合いましょう。イカサマはなしで」
とことん、タネも仕掛けもないことをアピールするジルフィア。逆に不自然なほど、全てを曝け出そうとする。
了承したシシーはまず、黒いカプセルをジルフィアの口元に持っていく。なにもおかしいところはない。飲まずに隠そう、というのはできないはず。最後まで注意深く見つめる。が。
「……おい」
その白く細い指先に、ジルフィアは舌を絡める。ディープに、音を立てて、耳から刺激を与える。ひと通り舐め終わったら、ゴクン、とカプセルを飲み込んだ。
「あぁ、ごめんなさい。ついね。汚してしまって申し訳ない。あぁ、あまりに甘美な味だ」
指先から熟成されたワインでも滲み出しているかのよう。反芻してもう一回楽しむ。あぁ、絶頂が込み上げてくる。
「……」
なんとなく、自分の弱いところを披露したことを、シシーは後悔しだした。まずいヤツに見せたな、と。それよりもチェスだ。まず基本から。◇ポーンe4。を指そうとしたら。
「あぁ、そうだ。この勝負を見届けてもらいたい人がいまして。来てもらっています。いいですよね?」
忘れてた、と命のかかる勝負だというのに、気の抜けた雰囲気を醸し出してジルフィアが同意を得る。
「見届ける?」
相手のことを掴みきれないシシーだが、肯定も否定もせずに、その後は押し黙った。ここまできたらもうなんでもいい。どうせ自分のことを聞いている人物だろう。学院の人物かもしれないが、隠す必要もない。
数秒後、シシーの背後にひとりの少女が立ちすくむ。
「……本当だったんだ。まさか優等生のあんたが、こんなことしてるなんてね」
「……アリカ・ラットヴァインさん、だね。どうしてここに?」
ここ最近、何度か話しかけられたことを、すでに臨戦態勢のシシーは思い出す。なるほど、ということはこの『毒』を作製したのは。彼女。
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